Q1 認知症の方は遺言を作成できるのか?
Q2 成年被後見人の方は遺言を作成できるのか?
Q3 字が書けない方は遺言を作成することができるのか?
Q4 口・耳・目の不自由な方は遺言を作成することができるのか?

遺言能力

 遺言能力とは,単独で有効に遺言を行うことができる資格です。遺言書が成立要件を満たしていても,相続人や遺言執行者によって被相続人に遺言能力がなかったとの反論が認められれば,当該遺言は無効です。

 遺言能力は,以下の2点が要件となります。
 ①遺言時に15歳以上であること(民法961条)
 ②遺言時に遺言内容及びこれに基づく法的効果を弁識・判断する能力があること(解釈)
 
 よく争いになるのは上記②であり,裁判例を見ると,被相続人が軽度(長谷川式)の認知症であり,かつ,遺言内容が複雑ではない事案では,遺言能力を肯定していますので,“認知症=遺言能力なし”とは言えません。もっとも,認知症の方が遺言書を作成する場合には,リスクヘッジの方法としては,遺言の種類を公正証書遺言にして公証人による本人状況等録取書添付,医師の診断書添付,遺言作成過程をビデオ撮影して保管,といったことが考えられます。

行為能力制限は適用されない

 ある人が法律行為を行っても,行為能力に制限(未成年・成年被後見人・被保佐人・被補助人)があれば,事後的に取消しが認められてしまいます。しかし,遺言作成の場面では,行為能力制限規定の適用が廃除されており(民法962条),上記遺言能力があれば原則として遺言書作成が可能です。
 もっとも,成年被後見人は,通常は事理弁識能力を欠いているため,遺言能力を有しない蓋然性があることから,当該能力が一時回復した場合であっても遺言書作成時には医師2名以上の立会及び事理弁識能力を有することの付記・署名・押印が追加成立要件として課されます(民法973条)。

自署・自書ができなくても遺言可能

 遺言の種類が自筆証書遺言の場合には,遺言者本人による全文自書及び署名押印が成立要件であるため,字が書けない方は作成困難です。
 そこで利用したいのが公正証書遺言となります。全文は公証人が録取した上で遺言者に確認すれば良く,自署能力が無い場合には公証人がその事由を付記することで代用できます(民法969条4号但書)。

口・耳・目が不自由な方でも遺言可能

 公正証書遺言は,公証人が,❶遺言者から遺言趣旨の「口授」並びに遺言内容の「口述」を受けて録取し,❷その内容を遺言者に「読み聞かせ」ることが必要です。平成11年の民法改正により,口のきけない方の場合には❶について「通訳人の通訳による申述」又は「自書」に代用できるようになり,耳の聞こえない方の場合には❷について「閲覧」に代用できるようになっています。


 遺言は、実は、非常に有用な制度です。
 遺言があれば紛争は起こらなかったという場合もあります。遺言を書いてみることにより、財産のあり方を考えるきっかけにもなります。
 しかし、自分の人生全体を考えることになりますので、同時にいろいろな事柄を調整しなければなりません。相続税を考えなければならない場合もあります。
 したがって、弁護士など専門の意見を聞く必要があり、それを総合的に判断する必要もあります。


遺言事項と付言事項の差異

 遺言事項とは,「遺言」という法律行為によって特別な効果を発生する事項であり,民法その他法律に根拠があります。
 付言事項とは,遺言内容にはなるものの,法的効果を伴わず,遺言者の希望を伝えるのみの事項です。

遺言事項

多数に上るため,主たる事項を列挙します。
詳細は,各テーマの記事をご参照下さい。

①相続に関すること
相続人の廃除と廃除取消(民法893条・同894条)
相続分の指定及び指定の委託(民法902条)
遺産分割方法の指定及び指定の委託,遺産分割禁止(5年限度:民法908条)
特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
相続人間の担保責任の定め(民法914条)
遺贈の減殺の方法(民法1034条)

②財産の処分に関すること
相続人以外に対する包括遺贈・特定遺贈(民法964条)
一般財団法人設立のための寄付行為(一般社団法人法164条)
信託の設定(信託法3条2号)

③身分に関すること
子の認知(民法781条第2項)
未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条・同848条)
祭祀主宰者の指定(民法897条1項)

④遺言の執行に関すること
遺言執行者の指定及び指定の委託等(民法1006条・同1016条~1018条)

付言事項

遺産承継の理由を記載すること
 相続人間のトラブル防止手段として利用することが考えられます。相続時の財産承継は,被相続人の生前の意志を尊重する建前となっています。生前の意向を証拠化する手段として活用すべきでしょう。

葬儀・埋葬方法の希望を記載すること
 この点は,遺言作成の際,依頼されることが多いのが実情です。しかし,遺言の存在自体を相続人が把握しておらず,葬儀終了後に発覚した場合には絵に描いた餅となってしまいます。希望実現に強い意向がある場合には,別途葬儀会社等と死後事務委任契約を締結しておくことが良いでしょう。


今まで遺言では、どの遺産を誰が相続するのかを決めるものの、その相続人がその遺産を思ったとおりに使いこなせるかどうかは、その相続人任せだったといえます。このため、家族がうまくやっていけるかどうかは、相続人次第という、危うさがありました。

ファミリーはどうあるべきかという最重要事項が表現されることはなかったのです。
この点で、今までの遺言の書き方は、改善の余地があると感じます。


 公証人役場で遺言を作成する場合や,相続業務に携わる専門家に遺言書作成をお願いする場合,『○○(推定相続人)に,□□を相続させる。』という文言で遺言事項を作成することが一般的です。しかし,民法上は「相続させる」という遺言事項に対して,特別の法律効果を発生させる旨の条文がありません。一見すると,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)に似ているのですが,実際には全く異なる結果となります。

民法で説明できる部分

①相続分の指定(902条)
⇒法定相続分とは異なる相続分割合を定めることができる。
②遺産分割方法の指定(908条)
⇒相続人の意向を無視して遺産の分け方を定めることができる(ただし,指定しただけでは遺産分割は確定せず,遺産分割協議は必要となる。)。

判例が特別な効果を与えた部分(特殊性)

上記②に加えて協議・調停・審判を経なくても遺産分割が確定する。
④各種遺言執行が不要となる。
⇒指定された者は,単独で相続を原因とする登記手続が可能。
⇒指定された者は,登記(不動産の場合)・確定日付通知(債権の場合)がなくても第三者に承継取得を対抗可能。
⇒遺産が農地の場合,指定された者は転用許可(農地法3条)が不要。
⇒遺産が賃借権の場合,指定された者は賃貸人又は賃貸目的物所有者の承諾不要。

遺贈よりも手続が簡便にできる「相続させる」旨の遺言

 遺贈と構成する場合,上記④の大半は遺言執行者を選任しておかないと手続が煩雑となります。それを回避できる点でも,「相続させる」遺言は有用です。


・ 遺族間の争いや、遺産分割による遺族の負担を軽減することができます。
・ 遺言作成にあたり、自分の気持ちや状況を客観的にみることができ、遺言作成後の人生を計画的に過ごすことができます。
・ 法定相続人以外のお世話になった人などにも、遺贈という形で財産を贈与することができます。

ただし、遺言には厳格な要式が定められていますので、法的に不備な遺言は無効になってしまったり、かえって紛争のもとになりかねません。
そのため、遺言の作成にあたっては、弁護士によるチェックやアドバイスを受けることをおすすめします。
さらに、遺言は、要式を満たしていれば自筆でも有効ですが、より正確性を期すため、公正証書による作成が効果的です。
公正証書を作成することにより、要式の不備による無効や、偽造、紛失などの心配が無くなります。
また、公正証書作成後でも、遺言は何度でも取り消し・書き直しが可能です。


 清算型遺言とは,清算型相続承継(遺産を全部又は一部換価し,相続債務・執行費用・死後事務費用等を控除した上で残額を承継させる相続方式)を内容とする遺言です。この場合,前提として,遺言事項にて遺言執行者の選任をしておく必要があります。

遺言執行者による不動産換価

 遺言執行者が第三者に不動産を売却換価する場合,売主名義は相続人全員となり,登記手続は一旦相続人全員での相続登記を付けた上で,遺言執行者と第三者との共同申請で移転登記を行うことになります。つまり,登録免許税が2回発生しますのでご注意ください。

譲渡所得税に要注意

 上記不動産換価には,譲渡所得税が発生します。相続開始後から10か月以内に実施する準確定申告により,当該譲渡所得税は法定相続人に相続分に応じて課税されてしまうため,遺産の取得部分が少ない相続人からはクレームが生じる可能性があります。
 対策としては,清算対象に譲渡所得税も含むことを遺言上に明記しておき,遺言執行者が管轄税務署と事前対応の上で,相続財産から支払うよう説明しておく必要があるでしょう。


 遺言者は、特別の理由がなくても、いつでも自由に遺言の全部又は一部を撤回することができます。
また、民法は、遺言がなされた後、一定の事実があったときは、遺言者の真意を問わずに遺言の撤回があったものとみなしています(法定撤回)。たとえば、相続人Aに不動産を相続させるという遺言をしていたが、その後遺言者が当該不動産を第三者Bに贈与したり売却した場合、この部分については遺言を撤回したものとみなされます。
 つまり、相続人にとってみれば、遺言者に遺言で約束してもらっても、遺言者の死亡後、必ずしもその時の内容のまま実現するとは限らないということになります。
 遺言は、あくまで、遺言者の死亡時(にできるだけ近い時点)の意思を、状況等と照らし合わせた上で実現しようとするものであり、遺言者が死亡するまでその内容は確定しないものであって、いつでも変更されるということを、理解していたほうがよいでしょう。


 遺言書を作成する場合に,遺言執行者を選任するよう勧められることがあります。しかし,遺言事項で遺言執行者を選任してしまうと,相続財産から報酬を支払うことになり,報酬額も計算方式で記載することが多いため,本当に必要なのか否か不安に思う方も多いと思われます。

 弁護士の視点から見た場合,清算型相続承継(遺産を全部又は一部換価し,相続債務・執行費用・死後事務費用等を控除した上で残額を承継させる相続方式)を希望する場合には,遺言執行者を付けるべきとアドバイスすることになります。

遺言執行に関連する遺言事項としては,以下の4点が重要になります。

①遺言執行者の選任(民法1010条)
⇒未成年者・破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)

②共同遺言執行者の定め(民法1017条但書)
⇒遺言者死亡前に執行者が死亡してしまった時の備えとして必要

③遺言執行者の報酬指定(民法1018条1項但書)
⇒決めていないと家庭裁判所で決定することになる(同条項本文)

④遺言執行者の権限具体化(民法1012条1項)
⇒相続財産の清算に必要な権限を具体的に記載しておかないと,当該財産に係わる第三者(法務局・銀行等)の協力を得られない可能性あり。


 遺言者が亡くなった後、自筆証書遺言書・秘密証書遺言書を保管又は発見した人は、すみやかに遺言書を家庭裁判所に持参し、検認手続きを行わなければならないことになっています。
この検認手続きとは、偽造・変造を防止し、遺言書の記載を確認する手続きです。

 遺言が有効であることを証明するものではないため、遺言の有効性について懸念がある場合は、検認後に有効・無効を争うこともできます。

 封印のある遺言書の場合、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封できません。

 相続人や代理人の立会いの上で検認を受けると、家庭裁判所において「検認調書」が作成されます。

 検認に立ち会わなかった相続人などに対しては、家庭裁判所から検認されたことが通知されます。

 なお、検認手続きが必要なのは、自分で作成・保管する自筆証書遺言と秘密証書遺言であり、公証人役場で作成・保管する公正証書遺言は偽造などのおそれがないので、検認手続きは必要とされません。

 遺言書を家庭裁判所に提出することをしなかったり、その検認を経ないで遺言を執行したり、家庭裁判所外において開封をした場合、遺言自体は無効になりませんが、このような行為をした人は、5万円以下の過料に処せられます。
 また、遺言書を偽造、変造、破棄や隠匿した人は、相続欠格者となります。


 「終活」という言葉も生まれているように,生前に死後の対応(葬儀方法,配偶者・子供の扶養,ペットの世話等。)をしておく方が増えています。遺言書の作成は,その最たる例ですが,死後に希望事項の実現を求める場合,どのような対策が必要でしょうか?

負担付遺贈

 負担付遺贈とは,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)のうち,貰う側(=受遺者)に一定の義務を負担させるものです(民法1002条・1003条)。
 受遺者は,受ける利益の限度内で負担義務を履行する責任を負います。義務履行は,遺贈者の死後に行われる必要はなく,生前であっても可能です。そのため,晩年の療養介護に対して金銭を与える旨の遺贈も,負担付遺贈の一種となります。
 形式的には,この方式が適切なのですが,受遺者が義務を履行しない場合でも,遺贈自体は有効のままです。この場合,相続人が受遺者に義務履行を催告し,それにも応じない場合には当該遺贈の取消しを家庭裁判所に請求することになります(民法1027条)

遺言による信託

 信託とは,AがBに財産を譲渡し,Bが当該財産を管理・処分することで利益をCに与える法的枠組みです(信託法3条2項)。
 遺言によって信託設定が可能となるため,例えば預金債権が相続財産になりうる場合,信託銀行を受託者として,生活資金給付信託・永代供養信託・公益信託といった管理・処分が可能です。
 もっとも,対象財産ごとに受託者を変える必要があり(預金なら信託銀行,有価証券なら信託証券会社,不動産なら信託不動産会社),受託者が適切に管理していることをどうやって確認するのか,受益者による監督が難しいことが問題です。


「?を相続させる。」という記載は、遺言書としてはよくある形式ですが、このような遺言がされた場合、この遺言が、遺産分割方法の指定をしたものと解釈するか、遺贈と解釈するかについて従来から見解が分かれていました。
しかし、平成3年4月19日判決で、「相続させる」と書かれた遺言書は、遺産分割方法を指定したものである、と解する判断が示され、現在ではこの見解が一般的になっています。

つまり、遺言書は、「?を相続させる」とするのと「?を遺贈する」とするのでは違いが生じることになりますので注意が必要です。

遺言書の記載を「相続させる」とすると、「遺贈する」とした場合に比して次のようなメリットがあります。
・ この遺言書があれば、遺産分割協議や家庭裁判所の審判を経ることなく、指定された相続人が遺産を確定的に取得することができます。
・ 遺産が不動産の場合、指定された者が単独で相続登記できます。
(遺言書が「遺贈する」となっている場合、他の相続人と共同して相続登記をしなければなりません。)
・ 登記の際の登録免許税が安く済みます。
・ 遺産が農地の場合、所有権移転登記の際の許可が不要です。
(遺言書が「遺贈する」となっている場合、許可が必要となりますが、調整区域の農地の場合、許可の取得が難しい場合があります。特に農業振興地域は農業従事者の資格がないと許可が下りません。)
・ 賃借権を相続する場合、賃貸人(所有者)の承諾が不要です。
・ 遺産が債権の場合、対抗要件が不要です。

なお、「相続させる」と書くと良いのは相続人へ遺言する場合です。
「遺贈」とは相続人以外の人へ遺言書で財産を分け与えることを指すので、相続人以外の人に財産を分け与える際に「相続させる」と書いても、それは「遺贈」であり、上記のような効力はありません。


 相続人が存在しない方の財産については,相続財産管理人が清算手続を行った上で,最終的には国庫帰属となってしまいます(民法959条)。どうせなら,公益団体に遺贈して社会貢献したいと考える方がいても不思議ではありません。
 一方,相続人が存在していても,高齢者の方は,お世話になった介護施設等へ遺贈したいと希望することも少なからず存在します。

遺贈を受け取ってくれるかの確認

 そもそも,遺贈によって受遺者側が財産を受け取ってくれるか否か,生前に確認しておかないと,死後に遺贈放棄されてしまいます。多くの公益法人等は,金融資産しか受け入れていない状況ですので,個別に確認すべきでしょう。

遺言執行者の選任

 実際の財産提供については,死後に手続が必要となりますので,必ず遺言執行者を選任しておく必要があります。

みなし譲渡所得税に要注意

 法人に金銭債権以外を遺贈する場合には,譲渡所得税が相続人に発生します(所得税法59条1項,国税通則法5条)。相続人が相続財産を何ら取得できないような遺言内容の場合,税金だけ負担することに異議を唱える可能性は極めて高いでしょう。
 この点は,遺贈によって生じる譲渡所得税について,相続財産から清算するように工夫が必要です。ただし,国・地方公共団体・公益法人等への遺贈についてはみなし譲渡所得税の課税がありません(租税特例措置法40条)。

公益信託という方法

 遺言による信託を利用し,信託銀行等に公益信託を委託することでも,同じ目的を達成することができます。


 遺言の検認は、遺言書の偽造や変造が行われることを防止するために、遺言に記載されている内容を確認するための手続きですが、遺言が有効であることを確定する効果はないことに注意する必要があります。
 したがって、検認の手続きがなされた後であっても、当該遺言が遺言者以外の者によって偽造されていた可能性などがある場合には、遺言無効確認訴訟を提起することで遺言の有効性を争っていくことができます。その際には、筆跡が遺言者と一致するか否か、遺言内容が遺言者の生前の行動と整合的か否か、遺言を発見した経緯等の様々な事情を考慮して遺言の有効性が判断されることになります。
 また、遺言書に「預金を与える」旨の記載があるため、貯金の相続をした相続人が銀行等の金融機関に行っても預金を払い戻そうとした場合、検認の手続きを経ていても、金融機関から払い戻しを断られることがあります。検認が済んでいても、上記のように遺言の有効性を争われることがあるため、金融機関としてはその争いに巻き込まれるリスクを避けているためです。この場合は、法定相続人や受遺者が払い戻しに了解して署名捺印した「相続関係届出書」を金融機関に提出することで、金融機関は払い戻しに応じてくれます。


平成23年2月22日最高裁判所第三小法廷判決にて、
「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、遺言者が代襲者等に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じない。」
という判断がなされました。
 
 すなわち、Aさんが「Bに相続させる」という遺言を作成していても、BさんがAさんより先に亡くなった場合は、その後Aさんが亡くなった際、Bさんの代襲相続人がAさんの遺産を相続することが認められない、ということになります。
 「Bさんが先に亡くなった場合は、その後Aさんが遺言書を書き直せばいい」と思われるかもしれませんが、本判例の事案のように遺言者と相続人が相次いで亡くなることや、同時に亡くなるということも十分考えられますので、特定の方に財産を相続させるという遺言書を作成される際は、「BがAと同時あるいはそれ以前に亡くなっていた場合は、Bに相続させるとした遺産を、全てC(Bの代襲相続人)に相続させる」などの予備的条項を記載しておく必要があります。


 記録を重視する立場からは、事実であれば正確に残すという考え方はありうるだろう。自分にとって良くないことも、子孫にとって大事な教訓となるのであれば、記録に残すということはあって良いと思う。
 しかし、記録として残すということは、残された人たちに対する遺言をするということでもある。遺言書に、うらみ、つらみなどを書いては、書かれた人の心にどこまでも残ってしまうだろう。このようなことが目的となるのは悲しいことであり、してはならないことである。
 全ての記録を残すことが重要なのではなく、記録を基に残された人がさらに成長することが重要である。


 すべての相続人を納得させる遺言をすることは、難しい。
 しかし、遺言者に対してさしたる貢献もないのに、理由もなく、その人に不公平に余分に与える遺言をすると、大いに揉めるだろう。
 このことは誰しも分かっていることだと思うが、実際に起こる。年をとり、ちょっとした誘導や迷いから、普通であればしない遺言をしてしまうことがある。また、遺言者は、自分では良く見ているつもりかもしれないが、本当のところを知らないことも多い。
 遺言を無効にすることは、形式が整っていると簡単ではない。公正証書遺言であれば、なおさらだ。遺言が有効であると、後は遺留分で争うしかない。
 遺言をどのようにするかは、遺言者の自由なのかもしれないが、家族をばらばらにすることもあることは、もう少し理解されても良いように思う。少なくとも第三者の意見を聞いてみるべきだと思う。