民法改正による会社法改正(2):会社法356条2項の改正

民法108条本文の改正:第1項本文として改正

民法108条は、【自己契約及び双方代理】という表題部のある規定で、代理人の利益相反取引を規制した条文です。しかし、この規定については、違反の効力が特に規定されてはいなかったので、判例により、民法113条の無権代理無効として解釈されてきました。
改正法では、新民法108条1項は、同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と改正され、違反行為が無権代理行為であることを明文化しました。
このように、判例が確立している場合に、改正の機会に、条文に取り入れることは、ままあることです。ただし、判例が確立していても、学説が対立しているような場合には、取り入れられることは見送られますね。
なお、第1項ただし書は、議論がありましたが、改正なしです。

民法108条2項の新設

このような改正に加えて、第2項が追加されました。
「前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しないと者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」という条文の新設です。
民法108条1項は、「同一の法律行為」に限定された規定ですので、同一の法律行為ではない場合でも、利益相反があれば、同様に規制するというものです。このような考え方は、判例によりすでに、民法108条類推適用として認められてきたものです。
したがって、この改正も、判例が確立しているものを条文に取り入れたものといえます。

会社法356条と民法108条の関係

会社法356条1項2号は、取締役の利益相反取引を規制する条文です。ただし、代表取締役だけでなく、平取締役も規制の対象です。したがって、新民法108条1項よりも、その適用範囲が広くできています。そして、会社法356条では、取締役の利益相反取引も、会社の承認(株主総会又は取締役会の承認)があれば、適法に行えるとしています。しかし、承認があった場合でも、新民法108条1項違反になるので、その適用を排除するために、会社法356条2項で、会社法356条1項2号の承認があった場合には、民法108条を適用しない旨規定されていました。

会社法356条2項の改正

その後、取締役の利益相反取引については、判例により、いわゆる間接取引についても、解釈的に規制されるようになりました。その考え方を、条文に取り入れたのが、会社法356条1項3号です。しかし、その際には、民法108条1項は、同一の法律行為のみを規制していたので、問題は生じませんでした。
ところが、このように新民法108条2項の新設により、会社法356条1項3号と、その規制の範囲が重なるようになってしまいました。そこで、会社法356条2項が以下のように改正されました。
「民法百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。」として、第3号の間接取引についても、承認を得た場合には、新民法108条が適用されないことを明文化することとなりました。
まあ、改正前から、間接取引については、承認あれば適法とされてきたので、そういう意味では、実質改正とは、いえないかもしれませんね。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年03月23日 | Permalink