会社法改正要綱案・各論(7)社債管理補助者

 要綱案の「第三部 その他」には、「社債の管理」という項が置かれ、社債管理補助者制度の新設が検討されている。
 現行法上、担保付社債を発行するには受託会社をさだめなればならず(担信法2条)、また、無担保社債の場合でも、原則として、社債管理者を定めなければならない(会社法702条本文)。しかし、例外規定に基づき(同条ただし書)、社債管理者を定めていないのが実務である。それは、社債管理者のコストの問題やなり手の問題とされる。他方で、最近、社債を利用した投資詐欺が発生しており、社会的問題となった。
 このような状況を踏まえ、社債管理者を定めない場合に、限定された権限を有する社債管理補助者制度の新設となった。これにより、社債に関する最低限の事務業務を確保するとともに、コストの問題も解決しようとするものであろう。なお、社債管理補助者は、社債管理者同様、誠実義務と善管注意義務を有するとされる。
 ここでにわかに議論となっものが、弁護士がこの社債管理者になれるかどうかという問題である。社債管理補助者の資格については、法務省令で定められることになるが、弁護士法人・弁護士が想定されている。
 


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年06月07日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(6)取締役の保険

 今回の改正要綱案の取締役に関するものの最後として、取締役の保険契約についての規制がある。
 すなわち、「会社が役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を填補する保険契約の締結については、役員等を被保険者とするものの内容の決定は、取締役会の決議によらなけれぱならない。」とするものである。そして、その代わりに、利益相反取引の適用除外、民法108条の適用除外とする。
 いわゆるD&D保険(会社役員賠償責任保険)を念頭において、その手続き規制を導入しようとするものである。D&D保険は、すでにわが国においても上場会社を中心に広く普及しているところであるが、一般的に利益相反的構造を有し、特に、間接利益相反取引の該当しうるものもある。
 そこで、実務に任せることなく、法的な手続規制を導入することとした。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(5)社外取締役

今回の会社法改正要綱案では、社外取締役に関し、二つの改正点が提案されている。
第1が、社外取締役に業務執行権を例外的に付与できるという制度と、第2が社外取締役を上場会社については、完全義務化するという制度である。

(1)社外取締役への業務執行権の例外的付与
 社外取締役の要件としては、非業務執行性が定められているが(会社法2条15号)、要綱案では、例外的に、業務執行権の付与を認めようというのである。
 すなわち、「会社(指名委員会等設置会社を除く。)社外取締役を置いている場合に、会社と取締役との利益が相反する状況にあるときは、又は、その他の取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、その都度、取締役会の決定によって、社外取締役に業務の執行を委託することができる。」とするものである。なお、これによっても、非業務執行性は、維持されるとされる。
 具体的には、MOB等の場面において、取締役が利益相反の関係にあるときとか、キャッシュアウトにおいて大株主が取締役である場合等が想定されている。

(2)社外取締役の上場会社の完全義務化
 先の改正で、見送りになりになっていた懸案であるが、要綱案では、ついに、上場会社については社外取締役の完全設置義務を提案している。
 上場会社については、すでに、証券取引所の上場要件等の圧力により、上場会社ではほぼ社外取締役を選任しているので、それほど大きな影響はないと考えられる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(4)補償契約

 第4回目となった今回は、取締役等への「補償契約」規定の新設を取り上げます。
 補償という概念は、会社法では初めての用語だと思われます。簡単に言えば、取締役がその職務の執行に関して発生させた費用や損失の全部又は一部を会社が負担してくれることです。これまで、このような「補償」制度は、会社法には存在していませんでしたが、実務では、一定程度行われていました。例えば、取締役が第三者から責任追及をされた場合で、取締役に過失がないような場合には、その取締役が要した裁判等に係る費用は、会社法330条や民法650条を根拠に、会社からの補償が認められているのです。
 しかし、このような実務を安易に野放しにすると濫用のおそれもあることから、特に、構造的には利益相反取引の範疇にはいるので、手続規制を導入することにしたのです。
 「役員等に対して次に掲げる費用等の全部又は一部を当該会社が報償する契約」を「補償契約」と定義し、この「補償契約」を締結するためには、取締役会の決議によらなければならいとして、取締役会の専決事項とするという考え方を示しました。もちろん、会社法423条の過失がある場合や、会社法429条の悪意又は重過失がある場合には、補償ができないというブレーキも示されています。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年04月04日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(3)取締役の報酬規制

 指名等委員会設置会社を除けば、取締役の報酬等は、株主総会決議または定款で定められ(会社法361条)、個人別の報酬等については、取締役会ないし代表取締役が決定している。これに対して、要綱案は、取締役会で、個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めなければならないとした。この規制が及ぶ対象は、上場会社たる監査役会設置会社と、監査等委員会設置会社である。
 第2に、金銭でない報酬等について、会社法361条1項3号を改正して、①株式又は株式の取得資金に充てるための金銭、②新株予約権又は新株予約権を取得資金充てるための金銭、及び、③これら以外の金銭でないものは、定款又は株主総会決議で決定することを要するとする改正案である。すなわち、①と②を加えるということである。
 第3に、取締役の報酬等である「自己株式」・「自己新株予約権」について、出資の履行を要しない旨を定める場合には、会社法199条1項2号・4号、236条1項2号を適用しないとするものである。なお、この特則は、上場会社にのみ認められる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年03月22日 | Permalink