商法(運送・海商)の改正(5)損害賠償請求権の競合
運送人に対する債務不履行損害賠償請求権と不法行為損害賠償請求権との競合については、判例は、原則として、肯定する立場を採用してきた。
しかし、それでは、商法が様々な責任制限規定を置いて、運送の責任を限定しても、不法行為責任の追及により、無に帰することとなっていた。
そこで、判例も、宅急便の事件において、信義則上責任制限限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることはできないとして、その姿勢を変更し始めていた。
それを受けて、改正商法は、運送人の責任制限のいくつかの規定を、不法行為責任の追及にも及ぼすことを定めた。ほぼその通り、判例の考え方を採用した。
新商法第587条(運送人の不法行為責任)
第576条、第577条、第584条及び第585条の規定は、運送人の滅失等について運送人の荷送人に又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引きうけた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。