会社法改正要綱案・各論(8)株式交付制度

 要綱案の「第三部 その他」には、もう一つの新設制度として、「株式交付」制度が提案されている。
 「株式交付」とは、「株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。」と定義される。
 簡単に言えば、株式交換という制度から、「完全」という部分を除いた制度と言えようか。
 そして、株式交付の結果、親会社となる会社を「株式交付親会社」と称し、株式交付の結果、子会社となる会社を「株式交付子会社」と称する。
 完全親子関係を創設する制度としては、株式交換制度があるが、完全親子関係までいかないのであれば、利用できない。現行法制度で行う場合には、株式の現物出資による新株発行しかなく、検査役の調査等が必要となり、手続きが煩雑である。そこで、株式交換同様の簡易な方法での、完全親子関係ではない、親子関係創設の制度を新設するということである。
 しかし、新たな子会社を有することは、リスクを伴うこともあることから、株主保護手続等を、以下のように、株式交換同様定めた。
 ①株式交換計画の作成
 ②株式交換親会社におる株主総会特別決議による承認
 ③反対株主の株式買取請求権
 ④株主による差し止め請求権
 ⑤債権者意義制度(譲渡対価が株式等以外の場合)
 ⑥株式交付無効の訴え


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年06月07日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(7)社債管理補助者

 要綱案の「第三部 その他」には、「社債の管理」という項が置かれ、社債管理補助者制度の新設が検討されている。
 現行法上、担保付社債を発行するには受託会社をさだめなればならず(担信法2条)、また、無担保社債の場合でも、原則として、社債管理者を定めなければならない(会社法702条本文)。しかし、例外規定に基づき(同条ただし書)、社債管理者を定めていないのが実務である。それは、社債管理者のコストの問題やなり手の問題とされる。他方で、最近、社債を利用した投資詐欺が発生しており、社会的問題となった。
 このような状況を踏まえ、社債管理者を定めない場合に、限定された権限を有する社債管理補助者制度の新設となった。これにより、社債に関する最低限の事務業務を確保するとともに、コストの問題も解決しようとするものであろう。なお、社債管理補助者は、社債管理者同様、誠実義務と善管注意義務を有するとされる。
 ここでにわかに議論となっものが、弁護士がこの社債管理者になれるかどうかという問題である。社債管理補助者の資格については、法務省令で定められることになるが、弁護士法人・弁護士が想定されている。
 


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年06月07日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(6)取締役の保険

 今回の改正要綱案の取締役に関するものの最後として、取締役の保険契約についての規制がある。
 すなわち、「会社が役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を填補する保険契約の締結については、役員等を被保険者とするものの内容の決定は、取締役会の決議によらなけれぱならない。」とするものである。そして、その代わりに、利益相反取引の適用除外、民法108条の適用除外とする。
 いわゆるD&D保険(会社役員賠償責任保険)を念頭において、その手続き規制を導入しようとするものである。D&D保険は、すでにわが国においても上場会社を中心に広く普及しているところであるが、一般的に利益相反的構造を有し、特に、間接利益相反取引の該当しうるものもある。
 そこで、実務に任せることなく、法的な手続規制を導入することとした。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(5)社外取締役

今回の会社法改正要綱案では、社外取締役に関し、二つの改正点が提案されている。
第1が、社外取締役に業務執行権を例外的に付与できるという制度と、第2が社外取締役を上場会社については、完全義務化するという制度である。

(1)社外取締役への業務執行権の例外的付与
 社外取締役の要件としては、非業務執行性が定められているが(会社法2条15号)、要綱案では、例外的に、業務執行権の付与を認めようというのである。
 すなわち、「会社(指名委員会等設置会社を除く。)社外取締役を置いている場合に、会社と取締役との利益が相反する状況にあるときは、又は、その他の取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、その都度、取締役会の決定によって、社外取締役に業務の執行を委託することができる。」とするものである。なお、これによっても、非業務執行性は、維持されるとされる。
 具体的には、MOB等の場面において、取締役が利益相反の関係にあるときとか、キャッシュアウトにおいて大株主が取締役である場合等が想定されている。

(2)社外取締役の上場会社の完全義務化
 先の改正で、見送りになりになっていた懸案であるが、要綱案では、ついに、上場会社については社外取締役の完全設置義務を提案している。
 上場会社については、すでに、証券取引所の上場要件等の圧力により、上場会社ではほぼ社外取締役を選任しているので、それほど大きな影響はないと考えられる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(4)補償契約

 第4回目となった今回は、取締役等への「補償契約」規定の新設を取り上げます。
 補償という概念は、会社法では初めての用語だと思われます。簡単に言えば、取締役がその職務の執行に関して発生させた費用や損失の全部又は一部を会社が負担してくれることです。これまで、このような「補償」制度は、会社法には存在していませんでしたが、実務では、一定程度行われていました。例えば、取締役が第三者から責任追及をされた場合で、取締役に過失がないような場合には、その取締役が要した裁判等に係る費用は、会社法330条や民法650条を根拠に、会社からの補償が認められているのです。
 しかし、このような実務を安易に野放しにすると濫用のおそれもあることから、特に、構造的には利益相反取引の範疇にはいるので、手続規制を導入することにしたのです。
 「役員等に対して次に掲げる費用等の全部又は一部を当該会社が報償する契約」を「補償契約」と定義し、この「補償契約」を締結するためには、取締役会の決議によらなければならいとして、取締役会の専決事項とするという考え方を示しました。もちろん、会社法423条の過失がある場合や、会社法429条の悪意又は重過失がある場合には、補償ができないというブレーキも示されています。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年04月04日 | Permalink