9 日本の美術家は、今後、どのような戦略をもつべきか。
(1) 日本の文化の1つとして、マンガ・アニメがあることは世界的にも知られている。村上隆は、マンガ・アニメがもつ日本のテイストを、「スーパーフラット」という概念により、欧米に向けて説明して、評価されたといえる。
(なお、村上隆のスタンスが、欧米に向けての説明であるために、日本のマンガ・アニメファンの理解が得られたものかどうかの問題はある。)
浮世絵が日本のテイストとしてヨーロッパで受け入れられたように、マンガ・アニメを日本のテイストを感じさせるものとして、アートの形で欧米に持ち込んだといえる。
意図的であるかどうかは別として、このようにマンガ・アニメの日本テイストを利用する作家は、既に多いと思う。したがって、そこに追随しても、ものまねになってしまうであろう。
(2) 日本人でありながら、ヨーロッパに滞在し、欧米の作家と同じように描かれた油絵は、多い。
しかし、日本人の眼からは、欧米のテイストとして評価されるであろうが、欧米では、むしろ違和感があるかもしれない。欧米の作家が舞妓を描くのと同様ではないかと思う。
したがって、日本人であるならば、日本のテイストをもつべきであると思う。
(3) 日本のテイストは、マンガ・アニメだけではないと考えている。
第1は、日本人の緻密・精密さであり、洗練である。これは、自動車、電化製品などの工業製品全般に見つけることができるだろう。
このテイストは、装飾の方向へと展開するものと、逆に装飾をはぶく方向へと展開するものとがありうる。
第2は、日本人の健気さである。これは、大震災があっても無秩序にならない自制心に見つけることができるだろう。
このテイストは、第1の点に関連し、装飾志向とそれを省く志向の両方を見たときに表れる精神性だと思う。
第3は、日本人の奇想である。これは、第2の点が精神性(内面)へと踏み込むものであることと対をなす、遊び(外面)であるように思う。
このような日本のテイストがアートとして表現され、日本人への理解が進むことを願う。