4 社外監査役の調査、判断基準(具体論)
(1)
日本法において経営判断の法則の精神は適用されていると考えられるが、裁判所は経営判断の内容について踏み込んで判断している点で、アメリカ法とは 異なる状況にある。したがって、経営判断の法則の一般論としての理解を前提として、個々の裁判例を検討し、裁判所の考え方のフレームワークを把握する必要 がある。
判例を検討すると、経営判断に対する裁判所の判断は、種々の要素を混然一体として判断しており、経営判断がどのような道筋でなされるべきかについて の明確な指針を示しているとはとらえにくい。
また、判例は、検討すべき要素について全てを採り上げて判断しているわけでもないことがある。
著者としては、判例を通観して、経営判断の道筋をまとめ、その進め方についての一応のモデルをつくることを意図したものである。
(2)
法律専門職である社外監査役は、次の点の調査、判断が必要である。
(客観基準)
基準1 当該行為自体の違法性、危険性の判断
業界一般の経済行為及び経営基盤に対する理解が必要となる。
基準2 当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断
会社の規模、事業の性質、営業利益の額等に照らして判断しなければならず、企業に対する理解が必要となる。
基準3 当該行為の必要性の判断
当該行為が現在の経営環境の中でいかなる点で必要なのかを明確にしなければならない。この点で瞬間的な判断も必要となる。
(主観基準)
基準4 会社の経営を維持、継続しようという意思、目的かの判断
専ら自己または第三者の利益もしくは損害発生を図るために行ったものであるかどうかを判断しなければならず、経営者との人間的な交流が必要とな る。
(3)
経営判断の法則に立つとき、客観基準の判断をどこまで徹底するかは問題である。客観基準を徹底するならば失敗は全てどこかで客観基準の検討が不十分 であったと考えられるのであり、失敗の全てについて責任が問われることになりかねないからである。しかし、現実の経営判断は、限られた時間の中で動的に行 われている。この点を裁判所はどのように判断するのか興味のあるテーマである。
(4)各基準間の価値の優劣
判例からは、次のようなルールを読みとることができる。
当該行為に危険性があっても、会社本体への影響が軽微であれば、当該行為の必要性が認められる限り経営判断は尊重される。
自社の経営にとっての必要性があっても、それに伴って相手先が被るリスクが明確であるときは、その行為を進めることはできない。(判例 2. 7)