判例2(東京地 昭53.2.24 判時 906. 91)
極めて貧困な収支状況下で相当高額の広告申込をなしたことは、経営者に許された合理的裁量の域を超えたものであるとして代表取締役に職務執行上少なくとも重大な過失があったとされた。
<事案の概要>
コンピュータ関係の会社の経営者であったYは、昭和48年1月に、レジャー関係の事業を営むA社を別途設立した。同社が利益を上げるのは、3年後を予定していた。
A社は、同年6月頃に、より広くレジャーを目的とした組織運営を始めたが、入会状況もはかばかしくなく、同年8月から昭和49年2月までの間のA社の入金額は、合計30万9000円に過ぎず、他方、経費は、社員の給料だけでも1カ月40万円位を要する状態であった。
A社は、昭和49年3月に、多額の費用をかけて広告を行ったが、結局、この広告料も支払えぬまま、同年7月頃に事実上の倒産をした。
<結 論>
責任について積極判断
<判 断 基 準>
基準2
当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断
以下の点を直視し、これを現下の経営者の社会的責任に照らすと、経営者に許された合理的裁量の域を超えたものとするのが相当である。
1.当時の著しい収支のアンバランス
収入 昭和48年 8月 200,000 円
昭和48年12月 53,000 円
昭和49年 2月 56,000 円
支出 社員の給料だけでも1か月 400,000 円
このとき昭和49年3月分の広告契約として 920,000 円
2.一般にレジャー産業の経営基盤ないし資産状態が不安定であること。
3.代表取締役自らも予期していたとみられること。
基準3 当該行為の必要性の判断
本件広告の依頼は同会社の新方針の実現に資するためのものであり、その限りにおいて企業における経営裁量の範囲内に属するものとみうる面もないではない。
<考 察>
広告は、基準3(当該行為の必要性の判断)の点では自社の経営にとって必要性があっても、基準2(当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断)の点では、相手先が被るリスクが明確であるケースである。このため広告の申込は、経営判断として合理的裁量の域を超えたものとされたといえる。