判例5(福岡高 昭55.10.8 判時 1012. 117)
経営が破綻に瀕した子会社に対する融資の継続
<事案の概要>
A社は、もっぱらX社の漁獲荷揚高を増大させるために設立された子会社であり、X社は、その株式の過半数を有し、資金、人事面を通じてA社の実権を掌握していた。
A社が破産に瀕する状態になったことから、X社の専務取締役であり、X社の代表取締役であるYからX社名義の手形行為一切の権限を与えられていたBは、X社の調査室に、A社の管理強化と対応策の立案を命じた。調査室からは、融資を打ち切る等の消極案と、9月に到来する盛漁期までのつなぎ資金を融資し、豊漁に遭遇して一気に経営の好転を図ろうとする積極案が提出された。当時は、全般的に不漁の時期であり、しかも、A社の漁法が旋網漁業という投機性の強いものであったので、積極策に出ることはかなりの危険を伴ったが、X社としては、既に多額の融資をしているのにそれに見合う物的担保を確保し得るような状況でもなかったので、消極策を取って直ちにA社を破産に至らせた場合の膨大な損害を恐れ、また、営業部門では強気の意見が多数を占めていたことから、A社に対する管理を強化するとともに、残った船舶や動産などの担保もできる限り徴する方針の下に積極策を採択し、A社に対する融資を継続した。
ところが、X社による経営管理が軌道に乗らないうちに、A社の代表取締役がひそかに市中の高利貸から多額の金融を得ていたことが発覚したこともあり、期待する盛漁期を待たずにA社は事実上倒産した。
<結 論>
責任について消極判断
<判 断 基 準>
基準1 当該行為自体の違法性、危険性の判断
子会社に対する管理を強化すると共に担保権を確保するための努力を講じた(危険度の減少)。
基準2 当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断
融資が戻らなかったとしても親会社の会社基盤を危うくする程のものではない。
基準3 当該行為の必要性の判断
盛漁期が到来するまでつなぎ資金を融資することにより子会社の経営が好転することを期す機会を持つことは合理的選択の範囲を外れたものとは認め難い。
その他 部内の意見を徴して判断している。
<考 察>
基準1ないし4について分析して判断すると、きわめて自然に結論が導き出せる事案である。すなわち、基準1ないし3について、全て充足しており、また、基準間で対立する要素がないため、判断に迷う要素は少ないといえる。