判例8(大阪高 昭61.11.25 判時 1229. 144)

下請企業への融資

相手先の営業の失敗からではなく、相手先が融通手形を交換しあっていた企業の倒産に関連して倒産した。

<事案の概要>

A社は、事務用、家庭用、工業用の収納用品の製造販売を主たる業務とする会社であり、Yは、同社の代表取締役である。

B社は、A社の下請業者であり、業績が思わしくなかった。A社としては、B社の商品は利益率が悪く、取引高も落ち込んで来たが、なおも最大の下請業者であり、まとまった注文があるため、B社との取引を断ち切ることもできず、共存共栄という経営者の方針もあって、B社に対する資金援助を開始した。

その後、A社の調査により、B社が他業者より高金利の融資を受けている事実が判明したため、必要な手段を講じたが、B社の業績は悪化の一途をたどり、A社の連鎖倒産を防ぐためにも、資金援助を増やさざるを得ない状況が続いた。

A社としては、自社の売上を拡大させてB社の業績の好転をも図り、資金援助の減少更に貸付金の回収を図るほかないと考え、事業規模を拡大し、売上を増加させて行った。しかし、B社は、融通手形を交換していた相手方企業が倒産したため、事実上倒産し、結局、A社も会社更生手続開始申立に及んだが、この申立後に初めてB社の融通手形交換の事実を知った。

<結   論>

責任について消極判断

<判 断 基 準>

基準1 当該行為自体の違法性、危険性の判断

資金援助にあたっては相手先の経営状態についての調査が必要であるが、この点につき、「下請業者とはいえ他企業の経営の全容を把握することは容易でないことに思いを致すと、相手先の経理関係の調査や監督に重大な落度があったとまでは解し難い。」

基準2 当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断

相手先の倒産が当該会社の倒産を招来するものと見通される状況になり、相手先の倒産を防ぐために融資を継続しながら、事業規模を拡大させ、売上の増加をはかっていた。

基準3 当該行為の必要性の判断

相手先が主力下請業者であり、かつて下請の6割をまかなっていたことがあり、関連業者とともに共存共栄をはかりたいという経営方針によって融資が開始続行されてきた。

収納用品業界は競争が熾烈であって新規の商品に対する需要いかんによっては大幅な売上増がはかれる業界である。(ヒット商品が出れば大幅に売上を向上させて業績の好転がはかれる。)

相手先の扱っていた製品につき、なおまとまった需要があった。

<考   察>

基準2(当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断)に関し、相手先の倒産が当該会社の倒産を招来するものと見通される前に融資を打切るべきではなかったかという問題提起をなしうるところである。

当該会社の倒産の時点から過去を振り返るのであれば、融資を認めた経営判断は誤りであり、倒産という最悪の状況に至る前に融資を打切るべきであったといえる。

しかし、裁判所は、必ずしもそのような判断をしていない。むしろ、ヒット商品が出れば大幅に売上を向上させて業績の好転がはかれる業界にあって、そのチャンスに賭けることを認めたと判断される。そこで、将来に向けてヒット商品が出るのかどうかをどのように判断し、その判断の合理性をどのように検討するのかが、次の問題として生ずる。

この点は、それぞれの業界ごとにこれまでの経験の蓄積があり、その経験に基づく経営判断が合理的であるかどうかを検討することになる。そして、その判断は、あくまでも経営判断をするときの限られた時間の中で得られた材料(経営者個人の見通し、現場の意見、専門家の意見など)に基づいてなすことになる。この意味では、裁判所も経営判断がきわめて動的なものであることに理解を示しているといえる。


投稿者名 管理者 投稿日時 2015年06月26日 | Permalink