保護命令‐暴力を振るう配偶者への接近禁止命令
保護命令とは、配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた被害者が、配偶者から受ける身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、裁判所が被害者からの申立てにより、当該配偶者に対して発する命令のことです。
※この場合の『配偶者』には、婚姻の届出をしていないいわゆる「事実婚」も含みます。男性、女性の別を問いません。また、離婚後(事実上、離婚したと同様の事情に入ることを含みます。)も引き続き暴力を受ける場合を含みます。
保護命令には、次の5種類があります。
第1 被害者への接近禁止命令
被害者へのつきまといや、被害者の住居、勤務先などの付近を徘徊してはならないことを命ず
る保護命令(期間は、6か月間)
第2 被害者への電話等禁止命令
被害者への接近禁止命令の期間中、次に掲げるいずれの行為も禁止する保護命令
1.面会の要求
2.行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又は知り得る状態に置くこと
3.著しく粗野又は乱暴な言動
4.無言電話、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して電話をかけ、ファクシミリ装置を用
いて送信し、若しくは電子メールを送信すること
5.緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に電話をかけ、ファクシミリ
装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること
6.汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又は知
り得る状態に置くこと
7.名誉を害する事項を告げ、又は知り得る状態に置くこと
8.性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくは知り得る状態に置き、又は性的羞恥心を害する
文書、図画その他の物を送付し、若しくは知り得る状態に置くこと
※ 被害者からの申立てにより、被害者への接近禁止命令と同時、又はその発令後に発令さ
れます。
第3 被害者の子への接近禁止命令
被害者への接近禁止命令の期間中、被害者の同居している子の身辺につきまとったり、子の
学校等の近くを徘徊してはならないことを命ずる保護命令
被害者からの申立てにより、被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを
余儀なくされることを防止するため必要があると認める場合に、被害者への接近禁止命令と
同時に又はその発令後に発令されます。
※ 当該子が15歳以上のときは、子の同意がある場合に限ります。
第4 被害者の親族等への接近禁止命令
被害者への接近禁止命令の期間中、被害者の親族その他被害者と社会生活において密接
な関係を有する者(以下「親族等」という。)の身辺につきまとい、又はその通常所在する場所の
付近を徘徊してはならないことを命ずる保護命令
※ 被害者への接近禁止命令と併せて(被害者への接近禁止命令と同時又は被害者への接
近禁止命令が発令された後)発令されます。
※ 当該親族等が被害者の15歳未満の子である場合を除き、当該親族等の同意があるとき
に限ります(当該親族等が15歳未満又は成年被後見人である場合には、その法定代理人
の同意)。
※ 配偶者が親族等の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることなどか
ら、被害者がその親族等に関して配偶者と面会せざるを得ない事態が生じるおそれがある
場合に、被害者の生命又は身体に対する危険を防止するために発せられます。
※ 保護命令で保護される範囲は、被害者及びその親族までとなります。
仮に被害者の友人(被害者の行方を知っている等の理由で)に対してもつきまとい行為が
あっても、第三者の友人までは保護は及びません。
第5 退去命令
被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及びその住居の付近を徘徊しては
ならないことを命ずる保護命令(期間は2か月間)
※ 被害者と配偶者が生活の本拠を共にする場合に限ります。
☆配偶者である相手方が保護命令に違反すると
刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の制裁が加えられることになります。
申立をするにあたって、以下のことを記録したりまとめておくことが必要です。
(1) 配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況
(ex.いつ、どのような暴力、または脅迫を受けたか。
受けた暴力により怪我をされた場合などは、診断書をとっておく等。)
(2) 配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後
の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれ
が大きいと認めるに足りる申立ての時における事情
(3) 被害者の同居の子への接近禁止命令の申立てをする場合にあっては、被害者が同居し
ている子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため被害者の同居の
子への接近禁止命令を発令する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情
(ex.子を連れ去る危険の有無、子の連れ去り等の後、被害者との面会の強要など)
(4) 被害者の親族等への接近禁止命令の申立てをする場合にあっては、被害者が親族等に
関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため被害者の親族等への接近
禁止命令を発令する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情
(5) 配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対して(1)から(4)までの事項につ
いて相談し、又は援助若しくは保護を求めたことの有無及びその事実があれば、
ア.相談、又は援助若しくは保護を求めた配偶者暴力相談支援センター又は警察職員の所
属官署の名称
イ.相談、又は援助若しくは保護を求めた日時・場所
ウ.相談又は求めた援助若しくは保護の内容
エ.相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容
※ 配偶者暴力相談支援センターや警察の職員に相談等をしていない場合は、(1)、(2)の
事項についての申立人の供述を記載した書面を作成し、公証人役場へ行き、公証人の面前
で作成した供述書の記載が真実であることを宣誓して宣誓供述書を作成します。その書面を
保護命令の申立書に添付することが必要です。
申立書は、?申立人の住所地、または居所
?相手方(配偶者)の住所地、または居所
?暴力等の行為が行われた場所
のいずれかを管轄する裁判所、または支部に提出します。
しかし、配偶者暴力に関する保護命令の申立をするにあたり、注意点があります。
(1) 申立人は、配偶者(元配偶者)からDVを受けた被害者本人に限られ、たとえ親族であって
も、被害者に代わり申立をすることはできません。
(2) この申立は、婚姻期間中に身体的暴力を受けておらず、離婚後より身体的暴力を受けるよ
うになった場合は申立をすることができません。
(3) 上記(5)の注意書きにも記載しましたが、申立を行なう前に、配偶者暴力相談支援センタ
ー(DVセンター)、警察のいずれかに相談に行っていること、相談に行っていない場合は、
公証人役場で宣誓をして宣誓供述書を作成していることが必須条件となります。
このどちらかを行なってない場合は、保護命令は発令しません。
暴力を振るう配偶者と離婚をする場合において、離婚の申し入れをすることによって、さらに配偶者から暴力、脅迫などの被害に遭う危険性が高くなることが予想される場合は、保護命令の申立を、離婚の調停、裁判を提起する際に同時に申立することも可能です。このような申立を行なうことで、配偶者からの暴力、またそれにともなう精神的ストレスを軽減することができます。