親権とは,未成年者の養育監護(居所指定・懲戒・営業許可等)・財産管理(注意義務・法定代理)のために,法律上の父母に与えられた権利義務の総称です。

 日本の親権制度は,婚姻期間中は父母の共同親権(民法818条3項本文)としつつ,離婚時には単独親権(民法819条)を予定しています。離婚時に父母のどちらが親権を取得するかは,第1次的には協議で決めることになっており(民法819条1項),協議離婚の成立要件です(民法765条)。協議で決められない場合には,審判手続(民法819条4項)又は離婚訴訟に際して裁判所が職権判断を下します(民法819条2項)。

親権者指定の判断基準

 裁判実務では,過去・現在・将来の3段階における監護養育状況を基礎事情として把握し,“子の福祉”に沿うか否かという観点で判断しています。裁判例でも頻出する判断基準は,以下のとおりです。各判断基準の詳細は,個別の記事をご参照下さい。

①適格性
②監護の継続性維持
③乳幼児期における母性優先
④子の意思の尊重
⑤兄弟姉妹の不分離
⑥面会交流に対する寛容性


 親権者指定の判断要素となる適格性は,未成年者の事情(発達状況,居住状況・集団教育等による環境変化への適応状況,健康状態,年齢,兄弟の有無等)に対応する形で,親権希望者の監護能力(意欲,可処分時間,健康状態,性格,経済力等)や監護環境(居所確保,物資確保,教育機関利用への支障度合い,監護補助者の有無等)を考慮します。

適格性が欠ける場合

 裁判例を見ていると,親権希望者の一方につき,適格性に“欠ける”と評価している事案は稀です。肯定した事案は,持病故に監護実施に著しい支障を生じる場合,経済力が皆無に等しい場合又は未成年者へのDVが存在している場合等,一見して監護能力に欠けていると評価できる場合に限定されています。
 父母の双方に適格性を肯定していることも少なくありません。

適格性に優劣が付けられるのか

 それでは,適格性が父母の双方に認められた場合,優劣を判断して勝った方が親権者指定を受けることになるのでしょうか?
 答えは,残念ながら『NO』です。多数の裁判例は,適格性について優劣を判断することなく,他の判断要素(主として監護の継続性維持)によって判断しているのが実際です。一般的に男性側が経済力で勝っていたとしても,そのことだけでは親権者指定に直截的な影響を与える事情とならないでしょう。


親権・監護権、これは、どちらも子供に関しての権利です。
親権とは、父母が未成年の子に対してもつ、身分上及び財産上の養育保護を内容とする権利です。
一方、監護権は、このうち身分上の養育保護、すなわち子の心身の成長のための教育及び養育を中心とする権利です。
親権は主に「身上監護」と「財産保護」に分けられますが、監護権は「身上監護」を意味します。つまり、監護権は親権の一部だと考えてもらえればいいかと思います。

民法上、子供が未成年の場合、離婚を成立させるためには、親権を夫婦どちらかを親権者(親権を持つもの)として指定しなければなりません。親権者は戸籍上にも記載されます。それに比べ、監護権は、もともとは親権の一部であるため、指定しなければ、親権者に監護権も与えられます。しかし、離婚・認知の場合、申し出があれば、親権者と監護権をもつもの(監護者)を別個に指定することもできます。

ではこの二つを別に指定することにより何が違うのでしょうか?

通常、親権者に子供を引き取る権利が与えられますが、監護権が親権者と違う相手に認められた場合、監護者が子供を引き取ることができます。親権者のように戸籍上に記載はありませんが、監護者は子供と一緒に暮らす権利を得ることができるのです。


 未成年者の生活状況が,一方当事者の下で一定期間以上平穏に生活している場合において,更なる環境変化が未成年者にとって肉体的・精神的に負担であることから,現状を尊重すべきとの経験則が導かれます。

判断要素としての比重の高さ

 一般的な離婚紛争は,一方当事者が未成年者を連れて別居した上で,示談・調停・訴訟というプロセスを経ることになります。そうすると,別居後から現在に至るまでの間,相当程度の時間が経過してしまうため,結果として子供を連れて別居した当事者が一時的監護者となり,当該判断要素故に親権を獲得し易くなってしまっているのが現状です。
 上記現状は,未成年者の“連れ去り”を間接的に促進しており,専門家の中でも子連れ別居を推奨する方が少なくありません。しかし,無計画な連れ去り行為は,子の福祉に反して違法になる可能性もあり,多くの問題を秘めています。

“現在”ではなく“過去”の監護状況が大切

 “現在”の監護状況のみを尊重すると,未成年者の奪い合いを助長してしまうことになります。そのため,真に検討すべきは過去の監護状況となる訳です。
 この点,男性は仕事,女性は家庭といった旧態依然の家庭世帯では,未成年者と接する時間が圧倒的に女性の方が多いため,離婚時の親権指定には男性不利になります。今でこそ“イクメン”という言葉も生まれてきましたが,家庭を顧みない父親に親権獲得は望めません。
 平素から養育監護に尽力していることを立証するには,地道な積み重ねが求められます。乳幼児であれば,保育園への送迎・連絡帳作成,行政実施の定期健診といった部分への積極的関与が考えられるところです。


子供がいる相手と婚姻をする場合、その子供と養子縁組をして、共同親権をもっていることが多くあります。
では、このように、養子縁組をし、共同親権を持つ実親と養親が離婚をする場合、親権者の指定は必要なのでしょうか。

これについて、原則として、親権者の指定が必要とされています。
しかしながら、離婚に先立って、養親子の関係を絶つこと(離縁)が多くあり、そうすると実親の単独親権となるため、親権者の指定が必要なくなります。



 従来の実務では,日本社会の分業化(男性は仕事,女性は家庭)が進んでいたことや,発達心理学の分野においても乳幼児期の愛着形成を母子中心に臨床研究が進んでいたこともあり,乳幼児期における未成年者の親権は「母親」を優先すべきであるとの原則対応が取られていました。
 しかし,男性の子育てへの意識の高まり,父子間における乳幼児期の愛着形成についても未成年者の発達要因となることが明らかにされることで,機械的な「母親」優先対応は取られなくなってきました。

求められる母性とは

 乳幼児の発達は,父母との愛着形成を経て,集団教育等による対外的な人間関係を構築することで加速していきます。愛着度合いは,家庭環境や未成年者と接する時間によって段階が生じ,①監護者と同様に自身を肯定しつつ外敵から守ってくれる存在,②監護者に準じて自身を助けてくれる存在,③遊び相手として許容できる存在,といった差異が乳幼児から見て生じてきます。
 求められる「母性」とは,上記①に相当する存在足り得ることです。

男性側に求められる対応

 勤労時間を調整できる自営業者であれば格別,雇用者で就労している男性の場合には,保育施設だけで乳幼児を養育監護することには限界があり,有力な監護補助者の助力無しに「母性」実現は難しいでしょう。
 監護補助者には,男性側の祖父母にお願いするケースも多々ありますが,なかなか母親と同等の存在足り得る次元に至っているとの証明が困難です。


 家事調停・家事審判では,判断結果が子供に影響を受ける手続の場合,子の年齢及び発達の程度に応じて,子の意思を尊重しなければならないと規定されています。(家事事件手続法65条,同法258条1項)

15歳以上の子供の場合

 子の年齢が15歳以上の場合,審判・訴訟時に子の意見聴取が必ず行われます。(家事事件手続法169条2項,人事訴訟法32条4項)
 まさに,子が親を選ぶ方式であり,親権者指定の判断要素として重く用いられることになります。

15歳未満の子供の場合

 聴取方法としては,家庭裁判所調査官による聴取や子自身の陳述書を作成・提出するというのが一般的です。難しいのは,①子に意思を表明するだけの最低限の能力があるのか(意思能力の有無)②子が自由意思に基づいて表明できるか,という2つの問題が潜んでいることです。
 意思能力は,10歳前後から事理弁識能力が生じてくることを理由に肯定されることが多いため,より幼い子については積極的な意向聴取はされず,他の考慮要素によって判断されることになります。
 自由意思か否かは,監護親の影響度によっても変化します。人身保護請求による子の引渡し案件の事例ですが,一見すると監護者の監護に服する旨意見表明をしていても,監護者が非監護者に対する嫌悪・畏怖を抱くように教え込んできた結果としての表明である場合,自由意思に基づかないと判断した判例があります(最高裁昭和61年7月18日民集40巻5号991頁)。
 子供は,両親が対立している際,双方の機嫌を窺う様になり,監護親を慮って,本意とは無関係に監護親の意向に沿った行動を取ろうとする場合があります。すなわち,非監護親側は,子供の発達段階や生活環境も十分に把握した上で,監護親が及ぼしている悪影響を積極的に主張・立証する必要があるでしょう。


離婚をし、親権者が決定した後でも、子供の利益のため、必要であると裁判所が認めるときは、親権者を他の一方に変更することができます。
この場合も、離婚の時と同様、調停の申立をすることが必要です。
なお,話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判所が、一切の事情を考慮して,審判をすることになります。

親権者の変更の裁判における判断基準は、「子供の利益」ですが、具体的には、親権のところで説明したようなことがポイントになってきます。また、子供が15歳以上の場合は、必ず子供の意見を聞かなければいけません。

親権を望むほうの親は、
・経済的に独立していること
・住まい及びその周辺の環境が子供を育てていくのに適した環境であること
・子供が幼い場合は、自分が働きに行っている間、子供の面倒を見てくれる人が身近にいること
など、経済面、環境面においても、親権争いの時以上に整えなければなりません。

そして、一番重要なのは、「なぜ親権の変更をするべきなのか」という理由を自分の立場からではなく、子の立場にたって主張していくことだといえます。

監護者の変更については、父母の合意があれば、話し合いだけで行うことができます。 監護者は、戸籍上に記載事項がないため、市区町村役場に届出を行う必要もありません。




 子と非監護親との面会交流に対する裁判所の立場は,子の健全な成長に重要な意義があるため,面会交流を実施すること自体が子の福祉を害する特段の事情が無い限り実施すべきであるという原則的実施の方向性です。
 比較法的に見ても,米国では面会交流を認める親に適格性を肯定する判断枠組みを採用していることから,日本においても近時,子の引渡し案件の裁判例を中心に,考慮要素に取り入れているものが散見されます。

近時の注目事例

 面会交流に対する寛容性を主たる根拠として非監護親(父親)に親権を認めた裁判例(千葉家庭裁判所松戸支部平成28年3月29日判決判例時報2309号121頁)が大きく報道されました。
 離婚訴訟の判決書記載認定事実によれば,夫が国家公務員,妻が休職中かつ大学院生であり,夫の出向による転居により住居と通学先が遠くなったことから,夫が家事育児の負担を大幅に増やし,妻は通学のために長女を置いて実家に帰ることが何度か生じ,長女の保育所手配・ベビーシッター利用を夫が進めていたという環境です。夫婦間の見解相違から口論が激化し,離婚交渉中に妻が夫に連絡することなく保育所から長女を連れ出し,そのまま実家に連れて行き別居をしました。夫は直ぐに妻側に返還を求めましたが叶わず,妻側は別居から3か月間は面会交流に応じていましたが,片親と会えなくなる子供の現状を特集したテレビ番組に夫側が提供した長女の写真が登場したことを端緒に面会交流も拒否し,電話での間接交流も半年後には拒むようになりました。結果として,判決日までに妻は約5年10か月間長女を監護し,その間に面会交流は6回程度しか応じていません。訴訟では,妻側は長女の親権を希望すると共に月1回第三者機関を利用して2時間程度の面会交流実施を希望し,夫側も親権を希望すると共に年間100日程度の面会交流実施を保障しています。
 以上の背景をふまえ,裁判所は特に判断基準を明確に打ち立ててはいませんが,「これらの事実を総合すれば,長女が両親の愛情を受けて健全に成長することが可能とするためには,被告(父親)を親権者と指定するのが相当である。」と判事しました。

上記裁判例の射程

 上記離婚訴訟は,控訴審で第1審が取り消され,母親を親権者とする判断が下りました。控訴審の考慮事項は,未成年者本人の意思を尊重しており,紛争長期化を背景とする子の成長で判断が逆転した感が否めません。
 第1審は,総合考慮の事由の中に夫側の面会交流実施に向けた計画案を摘示していることから,寛容性を考慮要素にしていることは明らかです。もちろん,夫側の用意した予定監護環境による適格性も評価されていますが,5年10か月の別居期間中に僅か6回(しかも最初の3か月間)しか直接交流を許さなかった妻側の対応への問題意識が,特に窺われるところです。
 従来,重視されてきた母性優先・継続性維持からすれば,予想される結果としては妻側への親権者指定であった故に(未成年者が幼年かつ女児であったことも大きなポイントです。),第1審のような面会交流の寛容性を重視する傾向が強くなれば,非監護親,特に父親側の援護射撃になる事案であることは間違いないでしょう。


離婚後、いったん決めた親権者を他方の親に変更する場合、双方の親が合意していたとしても、家庭裁判所の許可が必要となります。このため、家庭裁判所に調停申立をしなければなりません。

そして、家庭裁判所の許可が下りた後、子の新しい親権者は、家庭裁判所の許可書謄本を持参の上、市区役所にて親権者変更の届出を行なうこととなります。


 親などの保護者による児童虐待が社会問題になってきたことなどを背景に、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」に、家庭裁判所に親権喪失の審判申立ができるようになりました(834条)。
 親権喪失制度自体は改正前からありましたが、今回の改正(平成24年4月施行)により「虐待又は悪意の遺棄」という具体的な例が挙げられ、請求権者として、子の親族及び検察官のほか、子本人、未成年後見人、未成年後見監督人が加えられています。また、親権停止制度が新設されたことに伴い、「2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない」という文言が追加されました。


 これまで、親権を制限する手段としては、期限を定めずに親権を奪う親権喪失制度しかありませんでしたが、 今回の改正(平成24年4月施行)で親権停止制度が新設されました(834条の2)。
 親権喪失制度は、親権者から親権を奪ってしまう制度であることから要件が厳格であり、比較的程度の軽い事案には認められない面があることや、逆に一定期間だけ親権を制限すれば足りる事案には過剰な制限となるおそれがあるなどの指摘がされてきました。
 新たに創設された親権停止制度は、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」に、家庭裁判所に対する親権停止の審判申立を認めるもので、親権喪失の場合のような「著しく」という程度までは要求されていません。請求権者は、子本人、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官、児童相談所長とされています。
 また、親権停止は、2年以内の期間に限って認められます。


 未成年を保護し、その財産を管理する未成年後見人について、これまで民法は、一人の子供につき一人でなければならないと規定していましたが、今回の改正(平成24年4月施行)により複数人の就任も認められることとなりました(840条2項)。
 これにより、未成年者の財産管理について複数の未成年後見人からの相互チェックが可能となり、より安全かつ慎重な財産管理を期待することができます。
 また、今回の改正(平成24年4月施行)により、法人が未成年後見人に就任することも可能となりました。
 これにより、身寄りのいない未成年者について、社会福祉法人等が後見人となり財産管理を行うことが可能になります。