婚姻費用とは,夫婦及び未成熟子によって構成される婚姻家族が,その資産・収入・社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用を指します。その中核的要素は,夫婦の生活費と未成熟費の養育費ということになります。
 婚姻費用は,生活保持義務として,夫婦で分担するものとされています(民法760条)。これが,いわゆる“婚姻費用分担義務”であり,収入の多い者が義務者,収入が少ない者が権利者として,費用の分担を請求することができるのです。

婚姻関係が破綻している場合

 婚姻費用分担義務は,生活保持義務としての性質上,婚姻関係が破綻していたとしても存続すると解されており,その結果,別居中の義務者から権利者に対して請求されるのが通例です。

有責配偶者からの請求の場合

 婚姻費用分担金を請求する者が,婚姻関係破綻の主たる責任を負っている場合(有責配偶者),裁判例では請求者自身の生活費相当部分は権利濫用(民法1条3項)を理由に制限され,同居する未成熟子の養育費相当部分のみ請求が認められています
 当職が担当した事件でも,同様の審判が下されています。

婚姻費用分担金の支払始期・終期

 実務では,請求時(大多数は調停申立時)から具体的権利として発生し,婚姻の解消又は別居の解消時に終了すると考えられています。
 始期を考慮すれば,別居等を断行して生計を別にした場合には,速やかに調停を申し立てることが肝要です。もっとも,請求時以前の未払部分については,最終的には財産分与による清算の余地があるので,諦める必要は無いでしょう。

家事調停・家事審判による裁定

 婚姻費用分担金については,離婚訴訟において附帯して請求することができないため,当事者間で話し合いが出来ない場合には,必ず家事調停・家事審判を経て裁定していただく必要があります。家事調停・家事審判は,弁護士のみが手続代理人として関与できる分野ですので,1人で悩むことなく是非ご相談下さい。


 離婚後における子の養育費とは,未成熟子の養育に要する費用です(民法766条1項)。すなわち,離婚しても,親の子に対する生活保持義務は影響を受けないため,親と同程度の生活が出来るよう費用を負担する責務として,監護親から非監護親に対して養育費請求が認められています。

養育費の支払始期・終期

 実務では,請求時(大多数は調停申立時)から具体的権利として発生し,子が成人に達した日の属する月に終了すると考えられています。
 子が大学その他の高等教育機関に進学し,卒業時までの間,監護親の要扶養状態(具体的には,アルバイト収入や奨学金を活用しても自立生活における費用が不足するとき。)にある場合には,当該教育機関の卒業時までを終期と定められる事例も少なくありません。逆に,子が成人未満でも,就職して収入がある場合,監護親の要扶養状態にあるとはいえなくなり,終期が早まる可能性も存在しています。

進学・病気等の特別出費にかかる負担

 養育費の具体的金額の設定に際しては,実務上,一般的な生活出費等を考慮した簡易算定表を用いることが圧倒的多数となっています。子に私立学校や大学等への進学や病気による高額治療が生じた場合,考慮外事項となるため,家事調停では別途特別出費については協議する旨の事項を入れることが少なくありません。

支払方法

 養育費は,日々生じる定期金債権であり,当月分を当月払いとするのが通常です。一括払は未発生の将来部分を含むことから本来的には先払いに馴染まない性質を有しています。しかし,実務上は,支払方法について将来分を含めた一括払とする調停条項も有効と考えられています。

保証人設定について

 養育費については,非監護親が支払を途絶することも少なくないため,監護親としては連帯保証人を設定したいと考えるのもやむを得ない部分があります。
 しかし,養育費支払は生活保持義務の一環であり,親以外の第三者が負担すべき性質のものではないため,公正証書作成に際しても,保証意思の確認を厳格にしたり,保証期間を保証人の生存中に限ることで,限定する方向での運用がされています。

養育費を請求しない合意の有効性

 監護親が非監護親との間で,養育費を請求しないとする調停合意をすることも,夫婦間であれば有効とするのが裁判例です。
 もっとも,事情変更が生じれば,上記合意の変更を求める家事調停・家事審判を申し立てることも可能です。また,上記合意は子に対して拘束力が生じないため,子から非監護親に対して直接,扶養料として請求を受けた場合には,養育費相当額の支払に応じざるを得ない状況となります。


 婚姻費用・養育費の具体的な金額は,どのように定められるのでしょうか?
 法律上は,具体的な算定方法について明記されていません。過去には,事例毎に裁判所の裁量で決めていたこともありましたが,現在は一定の算定方式を基礎にして具体的数値を算出することが一般的です。

標準的算定方式

 現在の実務は,標準的算定方式(夫婦双方の基礎収入合計額を,夫及び妻並びに同居する子のそれぞれの最低生活費で按分する方法。基礎収入は,総収入から優先すべき公租公課・職業費・特別経費を控除したもの。)によって算定しています。
 上記方式は,当事者双方の総収入が判明すれば,簡易算定表が存在するため,概算結果を簡易迅速に把握することが可能です。⇒裁判所HPで公開されています。コチラ

標準的算定方式の修正

 標準的算定方式は,平成10年から14年までの統計資料に基づき,平成15年4月に公表されました。あくまでも,標準的な事案を想定した内容であり,簡易算定表も子供が3人までのものしか存在しません。
 したがって,4人以上の場合には個別に計算方式にて算出する必要がありますし,主として子供に関する特別な出費等が想定される場合には,その点を考慮して算出金額を修正する必要があります。
 調停・審判で問題になるのは,こうした簡易算定表では対処しきれない事案が多いというのが実感です。特別事情の考え方については,個別の記事で紹介させていただきます。

日弁連による新算定表

 標準的算定方式は,最高裁で是認されつつも,考慮されている統計資料が古くなってしまった点,総収入から住宅ローンや保険掛金等の有無を考慮することなく特別経費(住居関係費・保健医療及び保険掛金等)を控除している点,15歳を境界として生活費指数を変化させることは乳幼児と小中学生を同一区分にしてしまい生活事態とかい離している点等,批判も多く存在しました。
 これを受けて,平成28年11月15日に,日弁連が新しい算定方式及び算定表の提言をしています。⇒日弁連HPで公開されています。コチラ
 今後は,新算定表も,一つの算出根拠として拡散していくと思われます。


 法律では、離婚成立前に夫婦共同の財産を、相手に財産をとられたくないからといって、勝手に財産を使ってしまったり、財産を隠したりすることを禁止しています。その理由としては、離婚成立前と離婚成立後で財産に変化が出ると、成立後の財産分与などに支障をきたしてしまうからです。

 しかしながら、これには例外があります。

 たとえば、子供の養育費。
 小さなお子様なら、離婚成立まで長引いたとしても、そこまでお金はかかりませんが、進学を控えているお子様ではどうでしょうか。義務教育でないのならば、入学金、授業料など大きなお金が必要となります、結婚して、子供の進学のために貯めていたお金は、夫婦共同財産だから離婚成立までは使ってはいけないと言われては、どうすることもできません。
 このような場合、子供の養育費(夫婦間の子供に限る)は、離婚成立までの間払わなければいけない費用(婚姻費用)とみなされるため、これは例え離婚の手続をしている間であっても、夫婦の共同財産より差し引くことができるのです。


 離婚の際、支払うことが決定した養育費について、では、元妻が再婚したらどうなるのでしょうか?
前夫は養育費を払わなくてもいいのでしょうか?

 再婚した場合、再婚相手の人が養育費を払うのでは?と考えがちですが、前夫の扶養義務がなくなるわけではありません。つまり、継続して養育費を支払う義務があります。
 しかし、再婚相手に安定収入があり、元妻と子が扶養してもらっているのであれば、養育費の減額を裁判所に申し立てることができます。


 義務者(婚姻費用を払う側)が自宅を出て別居した後も、権利者(婚姻費用をもらう側)の居住する住宅ローンを支払っている場合、義務者は、自らの住宅関係費(家賃等)に加え、権利者世帯の住宅関係費(住宅ローン)も支払っていることになり、義務者が高額の金員の負担をしていることとなります。

 このような場合、住宅ローンを特別な事情として考慮したうえで、婚姻費用を算定されることがあります。


 調停や、審判、人事訴訟(離婚裁判のこと)の判決や調書、または訴訟上の和解で、相手に養育費の支払義務が発生しているのに、相手(支払義務者)が養育費を支払わない場合、相手の財産(不動産、預金や給与などの金銭債権、動産(家財道具、骨董品、貴金属、あるいは商品など)を差し押さえて、その財産から、養育費を徴収する方法があります。
 差し押さえる財産として、不動産や動産の強制執行は時間がかかり、手続も複雑で、養育費などの請求には適切ではありませんので、差押には、比較的手続の簡単な相手の給与が対象となることが多いです。

1 差押の内容
  通常の場合、差押は、支払期限が過ぎても支払われていない分(現時点で、未払いになっている分)までしかできませんが、養育費の場合は、未払い分だけに限らず、将来、支払ってもらえる予定の養育費についても差押ができます。
 <例>
 「(相手は、子供が)20歳に至るまで毎月末日限り金3万円を支払え。」
という定めになっている時で、相手から3か月分の養育費の支払いがない場合には、現段階で未払いになっている3万×3か月の9万円だけでなく、今後、支払われる予定の20歳までの養育費についても差し押さえることができます。

2 将来の分の差押ができる債権の種類
  定期的に支払期限が来る養育費について差押ができます。
  ※養育費だけでなく、扶養義務等にかかる金銭債権(婚姻費用の分担金、扶養料など、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する債権)であれば差押ができます。
  ※財産分与、慰謝料など、親族関係にないものの扶養契約に基づく債権については、将来の分を差押することができません(通常の強制執行手続は可能です)。

3 将来分について、差し押さえることができる財産とは?
  養育費の強制執行で、差押える財産に、相手の給与が対象となる理由とも共通しますが、養育費は、子供が成人する月まで支払う義務が発生しているものなので、当然ながら、差押えには、相手(支払義務者)の給料や家賃収入など、支払義務者が継続して、支払いを受ける金銭を対象となります。
  ※預貯金の払い戻し、保険の解約返戻金など、1回で支払いが終わってしまうものは、将来分の差押の対象になりません。

4 差押の範囲
  差押えできる金額は、養育費や婚姻費用等の場合には、給与額から税金と社会保険料を引いた残額の2分の1までです。あるいは「残額の2分の1」が33万円を超えるときは33万円が差押え禁止部分ですので、その余の部分が差押え可能です。賞与も同様です。退職金も税金と社会保険料を引いた残額の2分の1まで差押え可能です。
また、養育費の未払分については、上記の差押えられる範囲内で、まとめて受け取ることができます。将来、受け取る分については、各支払期限が到来した後に受け取ることになります。
  慰謝料や財産分与については、4分の1までです。裁判所による差押えの決定が出ると、決定を受け取った会社は、相手に支払う給料の中からあなたに支払うべき分を残しておかなくてはなりません。その後、あなたが会社と連絡して受領します。 
  
5 最後に
  離婚が成立しても、このようなトラブルが起こったときに備え、判決や調書などは、取っておくことをお勧めします。仮に、裁判所を通さずに離婚をしても、養育費などの取り決めを記した公正証書を作っておくのもよいと思います。
  また、差押期間満了にならないまま、相手が退職してしまい、給与の差押ができなくなってしまった場合、相手の新しい職場がわかれば、再度、債権差押の申立をすることも可能です。


 家庭裁判所で決められた金銭債務(養育費など)の支払いを相手が履行しない場合に、裁判所が相手の支払い状況を調査した上で、支払いをするよう勧告する制度として履行勧告、または、裁判所が相当の期間を定めて、相手に期間内に履行を命じる制度として、履行命令という方法があります。

①履行勧告
 この制度は、家庭裁判所に申し出ると、相手に対して決めたことを守るように裁判所が勧告するものです。当事者が自発的に実行するように、この制度が作られました。一部だけしか支払われなかった場合にも、この申し出をすることができます。
 履行勧告の申出は、文書、窓口、あるいは電話ですることができます 。
 この勧告は、婚姻費用、養育費、慰謝料、あるいは財産分与などのお金の問題に限らず、未成年の子の引渡し、子との面接交渉などの不履行についてもできます。裁判所は、勧告の前に相手を呼び出したり手紙で問い合わせて相手の状況を調べてくれます。調査の結果、もし正当な事由がないのに約束を守らないということが明らかになったとき、家庭裁判所は相手に履行するよう勧告します。電話で行われることもあるようです。但し、あくまで勧告にとどまり、強制力はありません。


 履行勧告をしても相手が支払ってくれない場合は、下記の履行命令という方法もあります。

②履行命令
 この制度は、上記の履行勧告よりも厳しいものとなります。
 もし相手が、正当な理由なく履行命令に従わない場合,家庭裁判所によって10万円以下の過料の支払が命じられる場合があります。家庭裁判所は、この履行命令を出す前には、必ず相手方の意見を聞くことになっていますが、呼び出しても相手が出てこない場合は申立どおりの命令が出る場合があります。
 
 履行勧告や履行命令を経ても、相手が義務を履行しない場合は、強制執行の方法によるしかありません。なお、履行勧告や履行命令を申し出ず、いきなり強制執行を申し立てることも可能です。