民泊における「住宅」とは

住宅宿泊事業法2条1項「住宅」の意義

 住宅宿泊事業法は,旅館業法上の業者以外の者が,宿泊料を受けて「住宅」に人を宿泊させる事業(上限は1年間で180日)を住宅宿泊事業として定めています。
 この「住宅」とは,どのような家屋でも対象になる訳ではなく,①施設要件と②居住要件を満たしている必要があります(法2条1項各号)。

施設要件

 住宅宿泊事業法施行規則第1条にて,台所・浴室・便所・洗面設備の設置が要求されています。同法の解釈指針であるガイドラインでは,各種設備は一棟の建物内に備わっている必要は無く,同一敷地内に存在して一体的に使用する権限があり,各施設が使用可能であれば足りるとされています。
 ユニットバスだと,複数の施設を兼ねることが出来ます。浴室はシャワーが存在していれば十分であり,トイレも和式・洋式を問いません。

居住要件

大きく分けて,3つの家屋を予定しています。
・現に生活の本拠として使用されている家屋
いわゆる,オーナーが自宅として利用している家屋です。
住民票上の住所として届出されていれば,要件を具備しています。

・入居者の募集が行われている家屋
住宅宿泊事業中に売却・賃貸の形態で入居募集を行っている家屋です。

・随時その所有者,賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
居所利用している訳ではないが,オーナーが随時利用されていたり(年1回以上の利用),賃借人・転借人が存在している家屋です。
ガイドラインでは,別荘,セカンドハウス,転勤で利用していない空き家,相続で獲得した空き家等,具体例も掲載されています。

事業用施設の民泊転用について

 居住要件では,「人の居住の用に供されている」必要があり,住宅宿泊事業の活動限界を超えた日数において,当該施設を別事業に利用するような事業用施設の場合,要件に合致しないとして「住宅」の定義から外されてしまいます。
 こうした事業用施設を民泊転用する場合,従前の規制と同様,旅館業法上の許可を得る必要が出てきますので,ご注意下さい。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2018年01月17日 | Permalink

民泊サービスとは

 『民泊』という言葉,ニュースで耳にしたことがあるけれども,あまりピンとこない日本人が多いと思います。けれども,賃貸不動産等の収益物件を所有する方には,空室率の打開策として,大きな影響を与えることになりそうです。

従来の宿泊サービスに関する規制

 日本では,旅館業法で,一定の「施設」で「宿泊料を受けて」「人を宿泊(=寝具を利用して施設を利用)させる営業」をする場合,安全・衛生の確保のため,都道府県知事(一定地域では市長・区長)の許可が必要とされています。
 従来の法制度では,住宅の全部又は一部を利用して旅行客等に宿泊サービスを提供する場合,少なくとも旅行業のうち,簡易宿所営業の許可を取る必要がありました(国家戦略特区に指定された地域[東京都大田区・大阪市・北九州市・新潟市]では,条例に定める要件を満たせば,旅館業法規制の例外として運用されていました。)。この場合,施設の構造に関する要件(代表的なもので居室の床面積が)を満たす必要があり,消防法への適合状況,建築基準法上の用途変更その他適合状況も確認する必要がありました。
 無許可営業をした場合,6月以内の懲役又は3万円以下の罰金が予定されています。

住宅宿泊事業法の公布

 訪日観光者(インバウンド)の獲得を主目的に,旅館業法の規制緩和策として,住宅宿泊事業法が平成29年6月16日に公布され,平成30年6月15日に施行されます(住宅宿泊事業者の届出は,同年3月15日から先行スタートします。)。
 この法律では,『民泊』を「住宅宿泊事業」と定義し,都道府県知事(一定の地域は市長又は区長)へ届出をするのみで足り,旅館業法上の施設構造要件ではなく新たに“住宅”要件を設け,既存の住宅を民泊サービスに活用しやすい形にしています。また,旅館業では規制地域となる住居専用地域においても,原則として開業できることになっています。
 一方で,旅館業との棲み分けをするべく,住宅宿泊事業は宿泊サービスの提供日数が1年間(4月1日正午から翌年4月1日正午まで)で180日以内という制限が付きました。

条例による付加制限の可能性

 新法の怖いところは,条例による上乗せ規制を容認している所です(法18条,同法施行令1条)。
 民泊が活発化すれば,比例してインバウンドが急増し,残念ながら騒音・不法投棄といった非行・犯罪も増加して,静穏な住居環境が乱される可能性があります。そのため,既に一部の地域では,住宅専用地域での開業を制限する条例を設けたり,1週間のうち平日の大部分で開業を制限する条例を設け始めています。
 中部地区では,まだこうした条例は制定されていませんが,名古屋市内でどういった条例が制定されるのか,注目していく必要があるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2018年01月06日 | Permalink

下請法と瑕疵担保責任

 売買契約・請負契約の取引類型では,目的物の引渡し後に発覚した瑕疵について,民法・商法にて『瑕疵担保責任』が規定されており,一定の要件を満たせば,売主・請負人に対して損害賠償等の請求が可能です。一方で,下請法の適用がある場合,親事業者は下請事業者に対して,返品・やり直し・経済的利益の提供が禁止されることがあります。
 瑕疵担保責任と下請法の関係について,整理していきましょう。

瑕疵担保責任の構造について

 民法では,売買契約・請負契約において,法定特別責任として瑕疵担保責任が定められており,商品給付後に発覚した瑕疵(あるべき品質・性能が欠如等)は,債務不履行ではなく瑕疵担保責任として処理することになります。また,企業間売買では,検査義務が課されており,明らかな瑕疵は直ちに通報し,隠れた瑕疵は6か月以内に通報しないと瑕疵担保責任が制限されます(商法526条)。
 民商法の瑕疵担保責任は,任意規定のため,契約条項で親事業者側に有利に変更することも可能です(多くは,瑕疵担保責任期間の延長等。)。

下請法の構造について

 下請法では禁止行為として,受領拒否の禁止,返品の禁止,不当なやり直しの禁止が定められています。しかし,これらは,“下請事業者の責に帰すべき事由”があると解除されるのであり,その典型例が下請事業者が瑕疵ある給付をした場合です。下請法の構造は,こうした瑕疵担保責任を排除する構造ではなく,瑕疵担保責任発動時=下請事業者が下請法上保護に値しない状況として扱っています。
 公正取引委員会作成の下請法テキストでは,❶隠れた瑕疵(=通常の検査では見つからない瑕疵)は受領後6か月以内(一般消費者向け保証がある場合には1年以内)に責任追及する必要があること,❷検査を省略する場合には返品等は禁止されること,が記載されています。後者については,隠れた瑕疵であれば瑕疵担保責任は認められるとも思えますが,検査省略による不利益を下請事業者に転嫁することになるため,下請法の趣旨から特に制限している部分になります。
 なお,隠れた瑕疵の責任追及期間(❶)については,親事業者が顧客等への保証期間を1年を超えて定めている場合,その期間を超えない範囲で下請事業者の瑕疵担保責任期間を延長することは許容されています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年08月15日 | Permalink

違反時の減免制度(リーニエンシー)

 下請法違反行為については,行政機関の書面調査又は下請事業者からの告発によって発覚するパターンが一般的です。他方,違反について親事業者が自覚しているケースも多く,下請事業者保護促進の観点からすれば,自発的な是正こそ,企業の法令遵守姿勢として評価・奨励すべきです。

 減免制度(リーニエンシー)

 公正取引委員会は,下請法違反行為をした親事業者に対し,以下の5要件を満たして自発的是正をした場合における勧告猶予措置を公表しています。

1 調査着手前の申告であること

 行政側の調査着手とは,通常は午後に親事業者へ架電し,立入調査実施に向けた質問・日程調整を実施した段階を指します。したがって,自発的申告は,速やかに,かつ,午前中に実施すべきということになります。

2 違反行為を現時点では取り止めていること

 申告から日を待たずして,違反行為を取り止めていることが必要です。

3 下請事業者の不利益回復措置を既に実施していること

 現に生じている又は近いうちに発生する下請事業者の不利益について,回避・減縮する具体的な対応を取っている必要があります。下請代金減額事案の場合,少なくとも過去1年分の減額相当分を返還している必要があるでしょう。

4 再発防止策の実施

 勧告時には,再発防止策を行政機関に報告するよう命じられます。これをふまえて,リーニエンシーにおいても,自浄作用として違反行為抑止制度を構築・運営している必要があります。

5 行政庁の調査・指導への全面的協力

 行政機関の調査権限は,警察機関の捜索差押手続とは異なり,嫌がる相手方に対して強制的に調査・資料提出を求めることができません。そのため,調査時における任意協力を拒否した場合には,リーニエンシーの恩恵を与えない運用になっています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年06月28日 | Permalink

手形払いに関する新通達

 政府は,いわゆる骨太の方針で,下請法等の運用強化,ガイドラインの充実・普及による適正取引推進を掲げ,経済産業省もいわゆる「世耕プラン」を打ち出して,①価格決定方法の適正化,②コスト負担の適正化,③支払条件の改善を課題としています。
 このうち,支払条件に関して,法律上,支払方法は特に定めなければ流通通貨によりますが,実際には預金振込の方法がとられます。もっとも,当事者が合意すれば代物弁済が可能です。直ぐに原資工面を要しない約束手形(振出人が後で現金化されることを約束した有価証券。現金化までの期間(支払サイト)が長ければ長いほど,支払われなくなる可能性が高くなる。)による代物弁済も,これまでは業界慣行・先例として実施されていた常況も多いでしょう。
 従前は下請法の規制を受けると,通常は,下請事業者が現実的に報酬を受け取る利益を潜脱しないように,支払サイトが120日以内(繊維業は90日以内)とする通達運用がされていました。

現金払いの原則化

 今回,新しい通達により,「下請代金の支払いは,できる限り現金によるものとする。」と記載されました。
 この「できる限り」とは,通達改訂の趣旨に鑑みると,親事業者側からは原則として現金払いを提案すべきとなり,下請事業者の同意があって初めて現金払いに準じた預金振込もしくは現金化までに時間・負担のある手形での代物弁済が可能になるとの意味合いで解するべきでしょう。
 また,従前から当事者の同意を経て手形払いにしてきた取引についても,親事業者側は現金払いへの転換打診をすべきと言うことにもなるでしょう。

割引コストの考慮

 新通達では,手形等の代物弁済に際しては,現金化コストについて下請事業者の負担にならないよう,「下請代金の額を・・・十分協議して決定すること。」と記載されました。
 例えば,手形は,支払サイト満了前に現金化するためには,銀行等で割引(一定額を控除の上で現金化)してもらうことが必要です。そうすると,本来的には商品納品時から60日以内に現金が受け取れるはずの下請保護規制が,実質的に潜脱されてしまうことになります。そこで,割引手数料相当額を報酬額に加算する等の打診が親事業者側に求められることになるでしょう。

支払サイトの短縮

 従前の支払サイト規制を当然としつつ,段階的短縮と最終目標として支払サイト60日以内とするように努力義務が課されました。
 この点は,実務上,大きな影響を及ぼす部分であり,当初の改正予定では一気に短縮する予定であったものを,諸事情考慮して努力義務にしたと推察されます。したがって,将来的には支払サイト60日以内が遵守事項に格上げされる可能性が高いでしょう。
 派生的に,建設業における支払方法についても,手形サイトは120日以内にするよう通達で規制されています。こちらの方も,下請法の新通達を受けて,変更される可能性があり,注意深く見守る必要があります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月25日 | Permalink