下請法の歴史と趣旨

 下請法は,個人が平常生活していく際には,取り立てて問題視する必要がない法律です。しかしながら,企業間取引においては,親事業者からすればコンプライアンス上は看過できない問題であり,下請事業者からすれば熟知して親事業者との交渉に生かすべき法律です。
 ニッチな法律を理解するポイントは,①制定の歴史,②制定の趣旨・目的を把握することになります。

下請法の歴史

 下請法の制定日は,昭和31年6月1日です。高度経済成長の初期であり,企業が目覚ましく発展している時代です。もっとも,強い立場にある親事業者側が,人・金・物の面で弱い下請事業者に無理をさせることがあっては,産業全体の活性化は成しえません。
 本来であれば,そうした適正取引に向けた是正は,公平な市場形成の一環として独禁法で規制(いわゆる優越的地位濫用規制)がされており,その活用が望まれるところです。しかしながら,同規制は要件が規範的であるが故に認定が難しく,迅速な対応ができない構造でした。そこで,下請事業者の経済成長を阻害しないよう,簡易迅速に処罰すること(半面として処罰範囲を明確にする)を狙って,下請法は制定されました。
 制定当時は,現在のように,メールもなければFAXもない時代です。ですから,下請法上の対処も,昭和31年の世代をベースに考えられているものが多いことになります。例えば,交付義務のある注文書は,現在ではFAXやEDIを使うことも多いはずですが,この法律では原則的に注文書の原本交付(郵送又は手渡し)として定められ,通達等によって例外的に下請事業者の了解が得ていれば電磁的方法によることもできるとされています。

下請法の趣旨・目的

 この法律は,下請事業者の利益保護が目的になります。しかし,あらゆる利益が保護範囲内なのかといえば,そうではありません。
 保護されている利益は,経済的利益(要するに報酬)です。下請法の要件を満たすと,親事業者には4つの遵守事項と11個の禁止事項が課されることになりますが,いずれも下請事業者が適正な報酬を貰うために欠かせない要素であるからこそ,定められているものです。
 建設業法上でも,下請保護規制が記載されていますが,これについても下請人の保護利益は主として経済的利益であり,規制態様も下請法と通じる部分が殆どです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月25日 | Permalink

下請法違反行為の私法上の効力

 例えば,親事業者と下請事業者が,①単価引下げ改定の遡及適用を合意することは「違法な下請代金の減額」となり,②親事業者による一方的な減額指値発注は「買いたたき」に該当する可能性があります。
 このような,下請法上の禁止行為に該当する親事業者・下請事業者の単価引下げ合意は,無効となりうるのでしょうか。仮に無効であれば,下請事業者は,少なくとも従前価格での未払報酬部分について,親事業者に債務不履行に基づく損害賠償請求を実施できることになります。

独占禁止法の場合

 参考になるのは,下請法の一般法である独占禁止法違反の私法上の効力に関する議論です。この点は,判例で,直ちに無効とはならず,公序良俗違反とされるような例外的な場合にのみ無効となると判断されています(最高裁第二小法廷 昭和52年6月20日 民集31巻4号449頁参照)。

下請法の場合

 下請法の場合でも,判例は独占禁止法と同じ結論を取る姿勢です(東京地裁判決 昭和63年7月6日 判例時報1309号109頁:なお,当該裁判例では,最終的に最高裁まで争われましたが,当該論点については第1審判決内容を維持しています)。したがって,下請事業者は,違法な単価改定合意であっても,これに独自に抵抗することは許されません。
 下請法では,行政による勧告その他罰則によって違法状態の具体的かつ妥当な収捨,排除を図るに適した内容の弾力的な措置を取ることで,下請事業者を保護することを目的としています。下請事業者としては,違法な単価改定合意があった場合,監督官庁である中小企業庁又は公正取引委員会に対して告発する以外に,救済手段が無いのが現状です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年06月01日 | Permalink

製造委託における“指定”

 下請法が予定する取引区分のうち,製造委託(法第2条1項)とは,事業者が他の事業者に物品の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランド(以下,「規格等」と略します。)を指定して製造を委託することを指します。
 なぜ,“指定”されることが要件となっているかといえば,下請事業者は製造した物品を親事業者に納めることで報酬を得られるところ,対象物品の規格等が親事業者の特別なオーダーが存在する場合,それに叶った物品を供給しなければ適正報酬は得られないため,その判断如何について親事業者の優越的地位が存在するからです。

規格品・標準品の購入は?

 製造する物品が,親不業者の指示を受けなくても内容が特定できる統一規格品である場合又は下請事業者がパンフレット等で紹介している標準商品そのものである場合,親事業者から規格等の“指定”が存在しないため,製造委託に該当しなくなる余地があります。
 もっとも,規格品・標準品であったとしても,それに付加して親事業者が下請事業者に加工を希望した場合には,“指定”したと判断される可能性があります。
 例えば,供給先を明確にするためのシールを貼らせたり,親事業者の仕様に沿って幅を切断したりする等,些細な作業を付加しただけでも,“指定”に該当すると考えられています。下請事業者保護の観点から,“指定”の判断は緩やかに解釈されている実情に,注意が必要です。

プライベートブランドの製造委託にはご注意を!

 近時,スーパーや量販店といった大規模小売業者・卸売業者において,製造メーカーに対して特定商品(既製品)を大量発注し,プライベートブランドとして商標を代えて提供することがまま見受けられます。大量発注故に価格も安価ですが,品質も一般商品に負けず劣らずで,消費者のニーズに沿った販売商品と言えるでしょう。
 しかし,このような手法は,規格等を“指定”して製造委託を行う方式であると判断されており,下請法上の所与の規制を受けることを認識しましょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月15日 | Permalink

下請法に精通しています!

 当事務所では,中小企業支援の一形態として,下請代金支払遅延等防止法(通称「下請法」)に関する専門性を高めています。

 下請法は,独占禁止法の特別法として,簡易迅速に下請事業者の経済的利益(=適正な報酬を得られる利益)を保護することを目的としています。一見すると親しみの無い法律ですが,親事業者に対する行政上の厳しい制約(4つの遵守事項と11の禁止事項)が課せられ,かつ,違反時には厳しい制裁が課されてしまう点で,親事業者のコンプライアンス対策には欠かせない法律の一つです。

講師実績

 中小企業庁主催の下請代金法セミナーについては,弁護士服部真也,弁護士春名潤也,弁護士柴垣直哉の3名が,中部地方(愛知・岐阜・静岡・三重)及び北陸地方(福井・石川・富山)において,平成25年~28年の4年連続で講師を担当しています。
 平成28年度は,活動の場を更に広げ,北は東京,南は大阪・広島・岡山・博多にも講師として足を運んでいます。

相談対応実績

 当事務所が名古屋市を拠点としていることから,自動車産業を中心に,素形材産業,繊維産業の企業からご相談いただくことが多い状況です。
 下請法の分野では,各産業種別ごとにガイドラインを設けていることがあり,固有の違反行為やベストプラクティス手法が例示されています。しかし,行政が求めるベストプラクティスは,理想論であって実務上は採用することが困難な場合も数多く存在します。
 そこで,親事業者の企業に対しては,実務担当者と共に下請法に抵触しない具体的対策を検討しています。また,下請事業者の企業に対しては,親事業者から違反行為を受けていたとしても,報復を怖れて簡単に声を上げられないのが実情です。そのジレンマを如何にして解消するのか,具体的対策を検討しています。
 是非,下請法に関するご相談は,当事務所にご一報ください。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年03月10日 | Permalink

経営者保証の担保性

債権者側の目線

 中小企業が金融機関等より事業資金を借り入れる場合,経営者個人を連帯保証人とするのが融資慣行です。貸主側としては,借主が破綻しても,経営者個人に責任追及すれば債権回収が可能と思っているかもしれませんが,保証契約の担保性能は極めて不安定です。例えば,経営者個人の財産を調査すること自体,個人情報保護の観点から多くの障害が存在します。また,経営者個人が破産手続を取られてしまうと,凡そ債権回収は困難になります。単に,保証契約を取り交しただけで安心することなく,融資以前に信用状況の調査をすることが肝要です。

経営者個人側の目線

 中小企業が金融機関等より事業資金を借り入れる場合,経営者個人を連帯保証人とするのが融資慣行です。この融資慣行は,①新規融資を困難にするばかりか,②中小企業の経営者交代にも悪影響を及ぼしています(債権者の承諾なく保証人の地位を移動できないため)。現在,日本商工会議所と全国銀行協会が「経営者保証に関するガイドライン」を公表し,その現状を変えようとしています。
 当事務所所属弁護士が,中小企業基盤整備機構が主催する同ガイドラインのセミナー講師として活躍しておりますので,お気軽にご相談下さい。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年08月10日 | Permalink