安全配慮義務とは

 安全配慮義務とは,労働契約に基づく付随的義務として企業が信義則上負うものであり,判例上は「労働者が労務提供のため設置する場所,設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59年4月10日民集38巻6号557頁)と判示されています。

安全配慮義務の内容

 そのままでは抽象的で義務内容が不特定である安全配慮義務ですが,具体的な内容として以下のような整理がされています。

⑴物的環境に関するもの
①労務提供の場所に保安施設・安全施設を設ける義務
②労務提供の道具・手段として,安全な物を選択する義務
③機械等に安全装置を設置する義務
④労働提供者に保安上必要な装備をさせる義務
⑵人的環境に関するもの
①労務提供の場所に安全監視員等の人員を配置する義務
②安全教育を徹底する義務
③事故・職業病・疾病後に適切な救済措置(配置換え・治療等)を行う義務
④事故原因となり得る道具・手段につき,適任の人員を配置する義務
⑶その他
①過労等の防止(健康配慮義務)
②ハラスメント等の防止(職場環境配慮義務)
③健康を害している労働者への配慮

企業が安全配慮義務を問われる場面

 労災事故が発生した場合,労働者側は,労災保険給付では填補できない損害(主として慰謝料)を企業側に求めることになります。逸失利益の不足分を請求される場合もありますが,労災保険給付の減額措置又は損益相殺が行われる可能性もあるため,労働者側が弁護士を付けて企業相手に交渉をする場合,慰謝料費目で示談交渉を開始することが多いでしょう。
 近時は,労災事故に至る前段階のハラスメント事案にも安全配慮義務違反が問われ始めており,どこまで拡大するのか懸念されるところです。

業務起因性

 企業側に安全配慮義務違反が存在するとしても,その違反行為と労働者側の損害との間に因果関係が存在しなければ賠償責任が肯定されません。しかし,労災給付が認められた場合,傷病等との業務起因性が肯定されている訳ですが,業務起因性ありとの判断資料を利用する形で因果関係も肯定されるケースが非常に多い印象です。

過失相殺・寄与度減額

 企業側としては,安全配慮義務違反があったとしても,労働者側に問題があったとして過失相殺・寄与度減額を主張することが多いです。減額される割合は事案によって様々ですが,対等な当事者関係にないことから労働者側に有利な判断が行われがちなので,弁護士としては腕の見せ所になります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年07月26日 | Permalink