住民票の移動

 別居した上での離婚交渉に際して,住民票の移動を行うか否か,事前に準備しておく必要があります。

住所の基本的知識

 住所とは,「生活の本拠」(民法22条)であり,「生活の本拠」がなければ「居所」が住所とみなされます(民法23条1項)。
 住所が変更した場合には,変更から14日以内に役場に対して,同一市区町村内での移動であれば転居届,それ以外であれば転出届と移動先役場への転入届を,提出する必要があります(住民基本台帳法22条~24条,怠ると同法52条1項で5万円以下の過料制裁を受ける可能性があります。)

住民票変更のメリット

①別居状態にあることを住民票で証明できる
 家事事件では,客観的な証拠が乏しく,離婚に向けて証拠収集活動が欠かせません。別居開始は,端的な婚姻関係破綻状況の事実関係であり,住民票での立証が可能になります。

②転入先自治体から児童手当等の公的給付を貰える可能性
 詳細は,児童手当の記事をご確認下さい。自治体毎に運用も異なりますが,支給自治体に住所を有していない場合,児童手当の受給が難しくなります。

③転入先自治体で国民健康保険証を作成できる可能性
 就労が困難な状況でも,自ら国民健康保険証を作成することが出来ます(身分証明書としても利用できます。)。ただし,従前,相手方の被扶養者資格で健康保険証を有していた場合,国民健康保険の加入資格を得られないので,要注意です。

④保育園・幼稚園・小中高学校の編入手続が容易になる
 保育施設・教育施設は,各市区町村が管轄であるため,住民票の移動があれば,手続は所定どおりの流れになりますが,住民票を有しない自治体で入所しようとする場合,原則的には受け入れてもらえず,保育園等で広域入所措置をとる場合には要件を満たす必要があったりと,ハードルが高くなります。

住民票変更のデメリットは少ない?

 相手方が弁護士等の専門家に依頼した場合,変更後の住民票を職務上請求して内容を把握できてしまう可能性があります。相手方からDV,ストーカー行為その他迷惑行為が実施されうる場合には,別記事にて言及した措置請求の実施や,住民票移動を控える選択肢も必要となります。
 メリットに比して,デメリットが少なく見えますが,DV案件は当然のこと,長期に亘って相手方にモラルハラスメント行為を受けていたような事案では,何よりも別居先住所を把握されることを危惧する方が多いのが実情です。

住民票変更の時期

 この点は,別居断行から可及的速やかに実施すべきといえます。
 妻が子供を連れて別居する典型的なケースで考えて見ましょう。当該ケースが親権について争いが生じる案件で,夫側としては,別居強行による監護状態継続を阻止するため,妻だけを住民票から世帯分離し,実家等に転居したと仮定します。その場合は,子供の保育施設・学校施設の入所資格が喪失したり,子供の保険証に関して夫側から提供を受けなければ利用継続が困難になります。別居後の養育環境が整わないと,時間を掛けて離婚交渉をする方法が奪われかねません。
 別居をする場合は,事前に住民票移動について準備しておくことが肝要です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年06月02日 | Permalink