適格性

 親権者指定の判断要素となる適格性は,未成年者の事情(発達状況,居住状況・集団教育等による環境変化への適応状況,健康状態,年齢,兄弟の有無等)に対応する形で,親権希望者の監護能力(意欲,可処分時間,健康状態,性格,経済力等)や監護環境(居所確保,物資確保,教育機関利用への支障度合い,監護補助者の有無等)を考慮します。

適格性が欠ける場合

 裁判例を見ていると,親権希望者の一方につき,適格性に“欠ける”と評価している事案は稀です。肯定した事案は,持病故に監護実施に著しい支障を生じる場合,経済力が皆無に等しい場合又は未成年者へのDVが存在している場合等,一見して監護能力に欠けていると評価できる場合に限定されています。
 父母の双方に適格性を肯定していることも少なくありません。

適格性に優劣が付けられるのか

 それでは,適格性が父母の双方に認められた場合,優劣を判断して勝った方が親権者指定を受けることになるのでしょうか?
 答えは,残念ながら『NO』です。多数の裁判例は,適格性について優劣を判断することなく,他の判断要素(主として監護の継続性維持)によって判断しているのが実際です。一般的に男性側が経済力で勝っていたとしても,そのことだけでは親権者指定に直截的な影響を与える事情とならないでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年03月10日 | Permalink

離婚時の親権

 親権とは,未成年者の養育監護(居所指定・懲戒・営業許可等)・財産管理(注意義務・法定代理)のために,法律上の父母に与えられた権利義務の総称です。

 日本の親権制度は,婚姻期間中は父母の共同親権(民法818条3項本文)としつつ,離婚時には単独親権(民法819条)を予定しています。離婚時に父母のどちらが親権を取得するかは,第1次的には協議で決めることになっており(民法819条1項),協議離婚の成立要件です(民法765条)。協議で決められない場合には,審判手続(民法819条4項)又は離婚訴訟に際して裁判所が職権判断を下します(民法819条2項)。

親権者指定の判断基準

 裁判実務では,過去・現在・将来の3段階における監護養育状況を基礎事情として把握し,“子の福祉”に沿うか否かという観点で判断しています。裁判例でも頻出する判断基準は,以下のとおりです。各判断基準の詳細は,個別の記事をご参照下さい。

①適格性
②監護の継続性維持
③乳幼児期における母性優先
④子の意思の尊重
⑤兄弟姉妹の不分離
⑥面会交流に対する寛容性


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年03月01日 | Permalink

有責性(加害行為の違法性)

 離婚に際して慰謝料請求が認められるか否かは,離婚原因作出について専ら又は主として相手方の言動に起因することが認められる必要があります。そのため,離婚原因としては肯定される場合であっても,当然に慰謝料請求が認められる程度の有責性まで肯定される訳ではないことに注意が必要です。

不貞行為に基づく場合

 配偶者の一方が不貞行為を行った場合,守操義務に反して「夫婦としての実体を有する婚姻共同生活の平和の維持」を侵害したと評価され,多くの判例で有責性が認められています。

暴力その他有形力行使等に基づく場合

 配偶者の一方が他方配偶者に対して暴力その他有形力行使を行った場合,他方配偶者の生命・身体を侵害し,かつ,「夫婦としての実体を有する婚姻共同生活の平和の維持」を侵害したと評価され,やはり有責性が肯定される傾向にあります。

その他の有責行為の場合

 近時主張されることの多いモラルハラスメントや暴言といった無形的手段による加害行為の場合,被害が顕著でなければ有責性が認められにこともしばしば存在します。また,夫婦喧嘩が苛烈状態に陥ったことが背景として存在するような事案では,喧嘩両成敗といったように双方の有責性が否定されることもあります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年03月01日 | Permalink

有責配偶者からの離婚請求

信義則による離婚請求の制限

 有責配偶者とは,夫婦関係の破綻に専ら又は主として責任のある配偶者を指します。有責配偶者からの離婚請求は,一定の場合,信義則違反として制限されることがあります。ポイントは,必ず制限される訳では無いところです。
 信義則違反とまでいえるか否かは,離婚原因作出の態様・程度,他方配偶者の被害感情や婚姻継続意思の有無,別居後の生活状況や時間経過,離婚時の他方配偶者及び子供の予測状態等を総合考慮して判断されます。判例では,以下の3点を重視している事例もありますが,必ずしも全て要求していない事例もあり,信義則違反を確実に回避できる例外要件は確立していません。
 ①別居期間が同居期間との対比で長期化している
 ②夫婦間に未成熟の子が存在しない
 ③他方配偶者が離婚後に精神的・経済的に著しい苛酷状況に陥らない

有責配偶者が離婚したい場合には

 結論から言えば,時間・費用をかけて誠実に交渉し,信義則違反を回避していく必要があります。例えば,別居期間をある程度継続し,その間の婚姻費用分担金を支払い,場合によっては慰謝料相当額を支払い,子供が高校生以上になるまで養育監護に協力し,離婚後の生活状況変動を少なくするために財産分与を潤沢にする等の対応をしていくことが考えられます。また,駆け引きにはなりますが,他方配偶者に対し,婚姻継続意思を断念させるよう行動していく手法も考えられます。
 この点は,事案に応じて対応する必要がありますので,是非,弁護士にご相談していただきたいところです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年02月08日 | Permalink

モラルハラスメント

モラルハラスメントとは?

 近時,離婚原因としてモラルハラスメント(以下「モラハラ」という。)の主張を希望する依頼者が増加しています。
 私の経験上でも,①夫婦喧嘩の粋を超えた暴言,②無視・放置,③ステレオタイプな意見の押し付け,④過度の経済的制約,⑤夫婦間扶助義務に反する言動,等がモラハラに該当するとして多く展開されている印象があります。
 モラハラ自体,比較的新しい用語であるため,講学上の確定した意味合いを有しておらず,使用する人によって意味の変わる多義的な概念となっているのが現状です。

離婚原因として主張できるのか?

 理論構成としては,「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号:婚姻関係が不治的に破綻している場合 )に該当するとして主張・立証を尽くすことになります。
 モラハラ主張は,虐待概念における経済的暴力・社会的隔離・心理的虐待とも重なる部分があり,前記3点の虐待手法のうち,虐待とまでは評価できない部分であっても,離婚原因としては有用となる場合があるでしょう。
 
 結論としては,離婚原因の一部として利用することが可能ということです。

 単一事象としては婚姻関係不治的破綻への寄与が乏しいため,主張方針としては複数事象を積み重ねていくことが必要になってきます。相手方配偶者の問題言動を具体的に把握し,俯瞰的視点で自身が精神的苦痛を受けるに至ったプロセスを理解し,文章に纏めることが肝要です。立証方針も,陳述書のみでは証拠構造上心許ないため,早期の段階で,弁護士に相談をして,客観証拠の有無を確認することが大切です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年12月24日 | Permalink