年金分割の按分割合

原則は折半

 年金分割の按分割合は,原則として0.5(2分の1ずつの折半)とするのが実務運用です。

 理由は,対象となる被用者年金(厚生年金・共済年金)が,夫婦双方の老後所得保障としての社会的意義を有しており,婚姻期間中の保険料の納付が夫婦共同の寄与によって形成されたと考えられているからです。平成20年4月以降の第3号被保険者(専業主婦)については,独自に調停・審判を経ないで解決できる3号分割制度が存在していますが,この点についても,同じ理由で分割割合が0.5となっています。

例外が認められるのか

 もちろん,制度設計としては,例外的に「特段の事情」があれば,按分割合に差をつけることが可能となっています。しかし,殆ど認められていないのが現状です。

別居期間がある場合
 単に別居期間が一時的に存在しており,夫婦共同その間の財産形成に対する寄与が乏しいことを主張するだけでは,例外として認められないでしょう。別居期間が長期に及び,その間の経済的依存関係が相互に存在せず,他方との交流も無いような“事実上の離婚”状態と呼べるようになれば,保険料の納付が夫婦共同の寄与とは全く評価できなくなり,例外が認められる余地があると考えられます。

他方に有責性がある場合
 例えば,別居に至った経緯が,一方配偶者の有責事由(不貞・暴力等)がある場合について,例外を認める考慮要素として肯定した審判例があります。しかし,反対説も有力であり,一概に例外が認められる典型例とはなっていません。
 年金分割制度は,財産分与制度と同様に,夫婦共有財産の清算的側面だけでなく,離婚後の扶養的要素,有責性に対する慰謝料的要素,を考慮することを否定されていません。したがって,当事者の一方に有責性があるようなケースでは,他方の離婚後の生活について,当該年金に依存しなければ生計が立てられないような場合,按分割合に差をつけることが公平として例外が認められる可能性はあるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月11日 | Permalink

遺言事項と付言事項

遺言事項と付言事項の差異

 遺言事項とは,「遺言」という法律行為によって特別な効果を発生する事項であり,民法その他法律に根拠があります。
 付言事項とは,遺言内容にはなるものの,法的効果を伴わず,遺言者の希望を伝えるのみの事項です。

遺言事項

多数に上るため,主たる事項を列挙します。
詳細は,各テーマの記事をご参照下さい。

①相続に関すること
相続人の廃除と廃除取消(民法893条・同894条)
相続分の指定及び指定の委託(民法902条)
遺産分割方法の指定及び指定の委託,遺産分割禁止(5年限度:民法908条)
特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
相続人間の担保責任の定め(民法914条)
遺贈の減殺の方法(民法1034条)

②財産の処分に関すること
相続人以外に対する包括遺贈・特定遺贈(民法964条)
一般財団法人設立のための寄付行為(一般社団法人法164条)
信託の設定(信託法3条2号)

③身分に関すること
子の認知(民法781条第2項)
未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条・同848条)
祭祀主宰者の指定(民法897条1項)

④遺言の執行に関すること
遺言執行者の指定及び指定の委託等(民法1006条・同1016条~1018条)

付言事項

遺産承継の理由を記載すること
 相続人間のトラブル防止手段として利用することが考えられます。相続時の財産承継は,被相続人の生前の意志を尊重する建前となっています。生前の意向を証拠化する手段として活用すべきでしょう。

葬儀・埋葬方法の希望を記載すること
 この点は,遺言作成の際,依頼されることが多いのが実情です。しかし,遺言の存在自体を相続人が把握しておらず,葬儀終了後に発覚した場合には絵に描いた餅となってしまいます。希望実現に強い意向がある場合には,別途葬儀会社等と死後事務委任契約を締結しておくことが良いでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月10日 | Permalink

家事調停の流れ

家事調停とは

 調停は,裁判所を介した話合いの手続です。当事者本人には出頭義務が課されており,やむを得ない場合のみ代理人出席にて代行できます。(家事事件手続法258条1項,同法51条2項)

申立方法

 申立書,申立実情書,証拠資料,添付書類(戸籍謄本・住民票等),申立手数料(収入印紙),予納郵券(各裁判所所定額)を管轄地の家庭裁判所に提出します。
 裁判所では,申立てから約1か月後に調停期日を定め,申立書・証拠書類の写しを相手方に送付します。手続を管理する調停委員会(調停官1名と家事調停委員2名)も,申立書類を事前に閲読した上で,期日に臨みます。

手続の進行

 双方は,別々の待合室で待機して,呼出しに応じて調停室(6畳間程度)に案内されます。調停室内には,男女2名の調停委員がいて,当事者の本人確認を行った上で,質疑応答を行います。
 双方が申立事項に合意できれば調停調書を作成して手続は終了となり,合意に至らなければ調停官が不成立を宣言して終了となります。
 調停室に同席できるのは,当事者本人(又はその法定代理人)と弁護士のみです。

家事調停から弁護士に依頼するメリット

①訴訟・審判を見据えた書類作成
 調停は建前上“話合い”となっているため,「法律云々は問わず,話をすれば裁判所がまとめてくれる。」と誤解されている方が多数見受けられます。実際の手続では,限られた時間に主張内容を把握してもらうべく,書面化して事前提出することが必要ですし,訴訟・審判における予想最終状況を見据えて譲歩した着地点であることを,証拠と共に説明しなければ,調停委員会が相手方を説得する材料が無いことになってしまいます。
 その意味で,家事調停手続は,訴訟・審判の準備段階と捉えて頂く必要があり,紛争としては訴訟・審判とワンセットで対応するべきものといえます。そして,当該紛争全般にサポートできるのは,法律上,弁護士のみです。

②証拠収集
 家庭内紛争では,証拠に乏しい傾向があります。家庭内の状況を日頃からメモをしたり,会話を録音したり,写真に収めていたりすることは稀だからです。
 事実関係を精査するべく,もっとも単純な方法としては,当事者による時系列表の作成になります。これは,後々,訴訟等に発展した場合には,尋問手続に先立って陳述書を作成する材料としても有意義な資料となります。
 そして,何よりも客観的資料の獲得が必要です。当事者から食い違った事実関係が主張された場合,どちらが正しいのかは証拠で決まります。信用力のある客観的証拠をどれだけ揃えられるか,それこそが弁護士のノウハウの一つであり,活用していただきたい部分でもあります。

③相手方・調停委員会との駆け引き
 調停であっても,最終的な着地点を見出すためには,駆け引きが必要です。柔軟な姿勢を見せ過ぎると調停委員が自分の方ばかり譲歩を求めてくるようになり,最低ラインを下回る解決しかできなくなることもあります。しっかりとした根拠を持ちつつ,時には覚悟を決めて確固たる姿勢を打ち出す必要があります。その際,調停室の場であなたを支えて主張をすることができるのは,弁護士だけです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月09日 | Permalink

家事事件の全体像

離婚・離縁・認知等の場合

①家事調停(調停前置:家事事件手続法257条1項)
②調停不成立時には人事訴訟を別途提起して争う

婚姻費用分担・養育費・面会交流・財産分与・年金分割・子の引渡しの場合

①家事調停又は家事審判(家事事件手続法39条,同法244条)
 ⇒実務上は審判申立しても調停に付されることが多い(事実上の調停前置)
②調停不成立時には家事審判に自動移行(家事事件手続法272条4項)


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月09日 | Permalink

財産分与の清算割合

 離婚の際,婚姻期間中に形成された夫婦共有財産については,財産分与で清算されます。清算割合は,特段の事情が無い限り,2分の1とするのが現在の裁判実務です。

 清算割合は,夫婦共有財産を築いた寄与度によって決まってきますが,一昔前の様に男性が働き女性が専業主婦の世帯であっても,男性側の収入は女性側の“内助の功”によって支えられているという経験則から,2分の1とすることが一般的です。

 例外として,当事者の一方が特殊技能等を有する高額所得者で他方が専業主婦(夫)である場合を紹介する見解もあるようですが,そのことだけで収入に対する寄与度が高額所得者側に高いとは言い切れず,清算割合を修正するような「特段の事情」としては説得力に欠けると思われます。

 もっとも,現在では核家族・共働世帯が増加しており,男女間での収入格差も減少してきています。実務運用は,専業主婦に対する救済の観点から2分の1という結論先行で処理している側面もないとはいえず,女性配偶者の労働力・経済力をしっかりと判断して寄与度を定めなければ,清算的財産分与が求める公平性を実現できないのではと思う次第です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月05日 | Permalink