政府は,いわゆる骨太の方針で,下請法等の運用強化,ガイドラインの充実・普及による適正取引推進を掲げ,経済産業省もいわゆる「世耕プラン」を打ち出して,①価格決定方法の適正化,②コスト負担の適正化,③支払条件の改善を課題としています。
このうち,支払条件に関して,法律上,支払方法は特に定めなければ流通通貨によりますが,実際には預金振込の方法がとられます。もっとも,当事者が合意すれば代物弁済が可能です。直ぐに原資工面を要しない約束手形(振出人が後で現金化されることを約束した有価証券。現金化までの期間(支払サイト)が長ければ長いほど,支払われなくなる可能性が高くなる。)による代物弁済も,これまでは業界慣行・先例として実施されていた常況も多いでしょう。
従前は下請法の規制を受けると,通常は,下請事業者が現実的に報酬を受け取る利益を潜脱しないように,支払サイトが120日以内(繊維業は90日以内)とする通達運用がされていました。
現金払いの原則化
今回,新しい通達により,「下請代金の支払いは,できる限り現金によるものとする。」と記載されました。
この「できる限り」とは,通達改訂の趣旨に鑑みると,親事業者側からは原則として現金払いを提案すべきとなり,下請事業者の同意があって初めて現金払いに準じた預金振込もしくは現金化までに時間・負担のある手形での代物弁済が可能になるとの意味合いで解するべきでしょう。
また,従前から当事者の同意を経て手形払いにしてきた取引についても,親事業者側は現金払いへの転換打診をすべきと言うことにもなるでしょう。
割引コストの考慮
新通達では,手形等の代物弁済に際しては,現金化コストについて下請事業者の負担にならないよう,「下請代金の額を・・・十分協議して決定すること。」と記載されました。
例えば,手形は,支払サイト満了前に現金化するためには,銀行等で割引(一定額を控除の上で現金化)してもらうことが必要です。そうすると,本来的には商品納品時から60日以内に現金が受け取れるはずの下請保護規制が,実質的に潜脱されてしまうことになります。そこで,割引手数料相当額を報酬額に加算する等の打診が親事業者側に求められることになるでしょう。
支払サイトの短縮
従前の支払サイト規制を当然としつつ,段階的短縮と最終目標として支払サイト60日以内とするように努力義務が課されました。
この点は,実務上,大きな影響を及ぼす部分であり,当初の改正予定では一気に短縮する予定であったものを,諸事情考慮して努力義務にしたと推察されます。したがって,将来的には支払サイト60日以内が遵守事項に格上げされる可能性が高いでしょう。
派生的に,建設業における支払方法についても,手形サイトは120日以内にするよう通達で規制されています。こちらの方も,下請法の新通達を受けて,変更される可能性があり,注意深く見守る必要があります。