財産分与請求権の法的性質

 離婚紛争が増加する中で,離婚時に婚姻期間中に形成した財産の分割を求める手段として財産分与という制度が存在することは,広く周知されてきています。今回は,財産分与請求権(民法767条1項)について,少し掘り下げて見てみましょう。

 財産分与請求権の権利性

 財産分与請求権は,「離婚をした」当事者が請求できるものであり,一般的には離婚請求と同時期に行使されます。
 財産分与請求権は,権利行使可能期間が“離婚成立時から2年”に制限されていますが(民法768条2項但書),当事者の協議成立又は審判・調停があるまでは,具体的な内容が金銭請求なのか,特定不動産の引渡請求や登記手続請求なのか,つまるところ範囲及び内容が不確定・不明確な形成権です。
 不確定・不明確な段階では,たとえ当事者の一方が無資力状態であっても,債権者が債権者代位権によって代わって行使することはできないと考えられています。

財産分与請求権の内容

 財産分与請求権の構成要素には,①婚姻期間中に形成した財産の清算的要素,②離婚後扶養の要素,③離婚自体慰謝料の要素,以上3つが存在しており,個別に具体的分与額を算出します。
 優先順位は①と③が先行し,②については,①及び③だけでは生計維持が困難である場合にのみ認められます(補充性)。
 ③については,財産分与で考慮された場合,別途離婚自体慰謝料を請求できないのかという疑問点が生じます。この点については,判例にて財産分与での斟酌で精神的苦痛が全て慰藉された場合には別途請求することはできないが,財産分与での斟酌だけでは不足している場合には別個に慰謝料請求を実施しても良いとされています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月14日 | Permalink

面会交流の権利とは

 離婚交渉の過程では,別居の上で交渉することが一般的な流れです。夫婦間に未成年者がいる場合,両親のどちらかが監護親として養育監護を継続し,他方が非監護親として未成年者と接触できない状況が生じます。
 この点の是正を図るのが,「父又は母と子との面会及びその他の交流」,通称“面会交流”です。

面会交流権の性質

 法律上は,離婚時に「父又は母と子との面会及びその他の交流」を定めると規定しており(民法766条1項,同771条),非監護親と未成年者との面会方法を協議・調停・審判で決定します。離婚前の別居状態であっても,同条項の類推適用により,実務では面会交流を実施しています。
 面会交流は,離婚時においても子の適正監護の観点からは,父母双方と接することが健全な発達に資するため,非監護親側が監護親側に対して子の監護のために適正な措置を求める権利として存在しているのです。

面会交流が子供に与える影響と裁判所の姿勢

 発達心理学の分野において,米国では統計上のデータに基づく文献が数多く存在しています。面会交流は,離婚後の未成年者のより良い心理的・社会的な保護要因であるという帰結の研究が進んでいます。日本は,実証的研究がまだ途上の段階です。
 また,未成年者が監護親とのみ結びつき,非監護親を激しく非難・攻撃して拒絶するという片親疎外現象(原因は,監護親の操作,非監護親の行動・性格,子供側の要素と複合的です。)が生じると,感情的になりやすく,対人トラブルを抱えやすいと指摘する文献もあるようです。
 こうした状況を踏まえ,現在の家庭裁判所側は,両親との離別が否定的な感情体験であり,非監護親との交流継続は,子供が精神的な健康を保ち,心理的・社会的な適応改善するために重要視している状況にあります。

子の利益を最も最優先すること

 平成23年の民法改正で,面会交流を判断する際には「子の利益を最も最優先すること」が明記されました。面会交流の主役は未成年者なのであり,非監護親は子の健全な発達成長のために面会交流をし,監護親はこれに協力することが,通常は子の利益の最大化につながるので,実施すべきと言うことになります。
 反対に言えば,面会交流実施が逆に子の利益を害するような場合,制限・禁止すべきとなります。例えば,①父母の対立又は葛藤が激しい場合,②非監護親が暴力をふるったり面会条件を破る等の問題行動がある場合,③子が非監護親と単独で接することが難しい事情がある場合,制限した審判例も存在するところです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月07日 | Permalink

EVSSL証明に向けた弁護士意見書

 インターネットの活用が情報収集手段として一般化した昨今,利用端末からの個人情報流出には特に注意が必要です。ウイルスソフト等を導入していても,怪しげなサイトに辿りついて思わずメールアドレス,電話番号,クレジットカード番号等の個人情報を入力してしまうと,思わぬところで悪用されてしまう可能性があります。

SSL(Secure Sockets Layer)とは

 SSL(Secure Sockets Layer)とは,認証局の発行した証明書に基づいてWebサイトの身元を証明し,インターネット上でデータを暗号化して送受信する仕組み(プロトコル)です。個人情報やクレジットカード情報などの重要なデータを暗号化して,サーバ~PC間での通信を安全に行なうことができます。
 Webブラウザ上でアドレスバーの横に鍵のマークが表示されることがあります。これは,そうした暗号化処理を図っている結果です(Googleでの検索に際しては,SSL導入の有無を検索基準の一つにしているようです。)。
 こうした処理を施すことで,情報セキュリティを上昇させると共に,利用者の信頼感を増加させることが期待されています。

EV SSL証明とは

 従来のSSLにおけるWeb上の表示では,証明書が誰がどのような基準で発行したのか不明確で,悪意ある者が証明書を偽造・変造する事例が現れていました。
 そこで,Microsoft社の声掛けで商用認証局や開発企業でCA/ブラウザフォーラムという任意団体が設立され,「Extended Validation SSL証明書」のガイドラインが定められました。これにより,ガイドラインに準拠しようとする認証局は,証明書申請者の実在性について厳格に調査が求められることになりました。
 EV SSL証明書が導入されている場合,通常のWebブラウザでは,アドレスバーが安全を表す「緑色」で表示され,鍵のマークと共に「Webサイトを運営している組織の名前」と「証明書を発行した認証局の名前」が表示されるため,利用者は通信の安全性とWebサイトの信頼性を容易に識別できます。

弁護士の意見書が求められる理由

 証明書申請者の実在性確認手段として,弁護士に確認を求め,意見書形式での証明を求める方法が存在しています。そのため,当事務所でも,証明書申請者から「EV SSL証明書」発行を担当する認証局への意見書作成依頼を受け,実施した実績があります。
 意見書作成を希望する証明書申請者は,民間企業だけでなく,地方自治体にも及んでおり,今後,弁護士に対する意見書の要請も高まっていくでしょう。

 作成費用については,調査が簡易なものは1件3万円(税別)から,調査に時間を要する場合については個別に対応しておりますので,是非,一度ご相談ください。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月05日 | Permalink

婚姻費用・養育費の算定方法

 婚姻費用・養育費の具体的な金額は,どのように定められるのでしょうか?
 法律上は,具体的な算定方法について明記されていません。過去には,事例毎に裁判所の裁量で決めていたこともありましたが,現在は一定の算定方式を基礎にして具体的数値を算出することが一般的です。

標準的算定方式

 現在の実務は,標準的算定方式(夫婦双方の基礎収入合計額を,夫及び妻並びに同居する子のそれぞれの最低生活費で按分する方法。基礎収入は,総収入から優先すべき公租公課・職業費・特別経費を控除したもの。)によって算定しています。
 上記方式は,当事者双方の総収入が判明すれば,簡易算定表が存在するため,概算結果を簡易迅速に把握することが可能です。⇒裁判所HPで公開されています。コチラ

標準的算定方式の修正

 標準的算定方式は,平成10年から14年までの統計資料に基づき,平成15年4月に公表されました。あくまでも,標準的な事案を想定した内容であり,簡易算定表も子供が3人までのものしか存在しません。
 したがって,4人以上の場合には個別に計算方式にて算出する必要がありますし,主として子供に関する特別な出費等が想定される場合には,その点を考慮して算出金額を修正する必要があります。
 調停・審判で問題になるのは,こうした簡易算定表では対処しきれない事案が多いというのが実感です。特別事情の考え方については,個別の記事で紹介させていただきます。

日弁連による新算定表

 標準的算定方式は,最高裁で是認されつつも,考慮されている統計資料が古くなってしまった点,総収入から住宅ローンや保険掛金等の有無を考慮することなく特別経費(住居関係費・保健医療及び保険掛金等)を控除している点,15歳を境界として生活費指数を変化させることは乳幼児と小中学生を同一区分にしてしまい生活事態とかい離している点等,批判も多く存在しました。
 これを受けて,平成28年11月15日に,日弁連が新しい算定方式及び算定表の提言をしています。⇒日弁連HPで公開されています。コチラ
 今後は,新算定表も,一つの算出根拠として拡散していくと思われます。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月28日 | Permalink

その他婚姻を継続し難い重大な事由

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,最後に登場するのが「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」(民法770条1項5号)です。
 一体どんな内容なのか,説明していきたいと思います。

婚姻関係の不治的破綻

 当該離婚原因は,他の4つの例示を踏まえて抽象的・包括的に定められているものであり,全ての離婚原因に共通する要素,すなわち,婚姻関係が深刻に破綻し,共同生活の回復の見込みがない場合一般を指していると解されています。
 不治的破綻とは,夫婦としての信頼が完全に切れているという認識(主観的側面),外形的にも修繕不能状態と評価できる状態(客観的側面)の両面が必要です。

具体的な類型

認められる類型としては以下の通りです。詳細は,個別の記事をご参照下さい。
①長期の別居
②暴行・虐待等の犯罪行為
③不労・浪費
④過度な宗教活動
⑤軽度の精神障害
⑥セックスレス・異常性癖
⑦性格の不一致
⑧他方配偶者親族との不仲

 加えて,最近では,新しい類型も登場しています。モラルハラスメントは,その最たる例と言えるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月23日 | Permalink