離婚慰謝料の金額

 離婚紛争では,離婚請求と併合して300万円~500万円程度の慰謝料請求も行われることが一般的です。そのため,裁判所で認められる慰謝料金額の相場が知りたいという相談者の方が多数存在します。
 慰謝料額の一般的な考慮要素としては,婚姻期間,年齢,当事者双方の資力,社会的地位等が想定されますが,婚姻期間が長いほど破綻時の精神的苦痛も大きくなるため,増額傾向にあります。

裁判例から見る統計的結果

 近時公表された裁判官による論文(神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」ケース研究322号26頁)が非常に参考になります。当該論文は,東京家庭裁判所本庁に係属した離婚慰謝料が争点となる203件の事案につき,分析したものです。そこから引用した情報によれば,離婚慰謝料額の統計は以下のとおりです。
①不貞行為    平均223万円(認容は66%程度)
②暴言・精神圧迫 平均 93万円(認容は11%程度) 
③暴力      平均123万円(認容は52%程度)
④脅迫      平均100万円(認容は24%程度)

伸び悩む慰謝料金額

 あるベテラン裁判官の講義では,離婚場面での慰謝料相場は交通事故・名誉毀損と比較して30年間変動が無いとまで言われています。上記統計情報からも見て取れるように,請求自体が認められないケースも多く,認められたとしても低廉な額に留まることも多いのが実情です。
 精神的苦痛の程度は,加害行為の程度,平穏な婚姻期間の長短によっても変化します。自らの事例は,高額認定事例に類似するのか,一般的事例に留まるのか,認められない可能性のある事例なのか,専門家である弁護士にご相談いただくのが最良の判断方法です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月22日 | Permalink

公益法人等に相続財産を渡す遺言

 相続人が存在しない方の財産については,相続財産管理人が清算手続を行った上で,最終的には国庫帰属となってしまいます(民法959条)。どうせなら,公益団体に遺贈して社会貢献したいと考える方がいても不思議ではありません。
 一方,相続人が存在していても,高齢者の方は,お世話になった介護施設等へ遺贈したいと希望することも少なからず存在します。

遺贈を受け取ってくれるかの確認

 そもそも,遺贈によって受遺者側が財産を受け取ってくれるか否か,生前に確認しておかないと,死後に遺贈放棄されてしまいます。多くの公益法人等は,金融資産しか受け入れていない状況ですので,個別に確認すべきでしょう。

遺言執行者の選任

 実際の財産提供については,死後に手続が必要となりますので,必ず遺言執行者を選任しておく必要があります。

みなし譲渡所得税に要注意

 法人に金銭債権以外を遺贈する場合には,譲渡所得税が相続人に発生します(所得税法59条1項,国税通則法5条)。相続人が相続財産を何ら取得できないような遺言内容の場合,税金だけ負担することに異議を唱える可能性は極めて高いでしょう。
 この点は,遺贈によって生じる譲渡所得税について,相続財産から清算するように工夫が必要です。ただし,国・地方公共団体・公益法人等への遺贈についてはみなし譲渡所得税の課税がありません(租税特例措置法40条)。

公益信託という方法

 遺言による信託を利用し,信託銀行等に公益信託を委託することでも,同じ目的を達成することができます。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月21日 | Permalink

養育費とその支払義務

 離婚後における子の養育費とは,未成熟子の養育に要する費用です(民法766条1項)。すなわち,離婚しても,親の子に対する生活保持義務は影響を受けないため,親と同程度の生活が出来るよう費用を負担する責務として,監護親から非監護親に対して養育費請求が認められています。

養育費の支払始期・終期

 実務では,請求時(大多数は調停申立時)から具体的権利として発生し,子が成人に達した日の属する月に終了すると考えられています。
 子が大学その他の高等教育機関に進学し,卒業時までの間,監護親の要扶養状態(具体的には,アルバイト収入や奨学金を活用しても自立生活における費用が不足するとき。)にある場合には,当該教育機関の卒業時までを終期と定められる事例も少なくありません。逆に,子が成人未満でも,就職して収入がある場合,監護親の要扶養状態にあるとはいえなくなり,終期が早まる可能性も存在しています。

進学・病気等の特別出費にかかる負担

 養育費の具体的金額の設定に際しては,実務上,一般的な生活出費等を考慮した簡易算定表を用いることが圧倒的多数となっています。子に私立学校や大学等への進学や病気による高額治療が生じた場合,考慮外事項となるため,家事調停では別途特別出費については協議する旨の事項を入れることが少なくありません。

支払方法

 養育費は,日々生じる定期金債権であり,当月分を当月払いとするのが通常です。一括払は未発生の将来部分を含むことから本来的には先払いに馴染まない性質を有しています。しかし,実務上は,支払方法について将来分を含めた一括払とする調停条項も有効と考えられています。

保証人設定について

 養育費については,非監護親が支払を途絶することも少なくないため,監護親としては連帯保証人を設定したいと考えるのもやむを得ない部分があります。
 しかし,養育費支払は生活保持義務の一環であり,親以外の第三者が負担すべき性質のものではないため,公正証書作成に際しても,保証意思の確認を厳格にしたり,保証期間を保証人の生存中に限ることで,限定する方向での運用がされています。

養育費を請求しない合意の有効性

 監護親が非監護親との間で,養育費を請求しないとする調停合意をすることも,夫婦間であれば有効とするのが裁判例です。
 もっとも,事情変更が生じれば,上記合意の変更を求める家事調停・家事審判を申し立てることも可能です。また,上記合意は子に対して拘束力が生じないため,子から非監護親に対して直接,扶養料として請求を受けた場合には,養育費相当額の支払に応じざるを得ない状況となります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月20日 | Permalink

「相続させる」遺言による相続債務の承継

 相続債務についての帰属先については,別記事で言及しました。
今回は,全財産をA(=推定相続人)に相続させる旨の遺言を遺した場合,相続債務についてはAに全て帰属するのか,法定相続分で他の相続人と当然分割されるのかという疑問についてです。

 この点は,判例が解決しています。すなわち,相続人の一人に全財産を相続させる旨の遺言がある場合,原則として指定を受けた者が相続債務を全て承継し遺言の趣旨から相続債務について指定を受けた者に全てを相続させる意思がないことが明らかである等の特段の事情がある場合は例外を認める余地があるということです。

 当該判例の射程を検討すると,相続人の二人に指定割合で全財産を相続させる旨の遺言があった場合でも,原則は指定を受けた二人が相続債務を指定割合にそって承継することになるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月19日 | Permalink

死後に希望事項の実現を求める遺言

 「終活」という言葉も生まれているように,生前に死後の対応(葬儀方法,配偶者・子供の扶養,ペットの世話等。)をしておく方が増えています。遺言書の作成は,その最たる例ですが,死後に希望事項の実現を求める場合,どのような対策が必要でしょうか?

負担付遺贈

 負担付遺贈とは,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)のうち,貰う側(=受遺者)に一定の義務を負担させるものです(民法1002条・1003条)。
 受遺者は,受ける利益の限度内で負担義務を履行する責任を負います。義務履行は,遺贈者の死後に行われる必要はなく,生前であっても可能です。そのため,晩年の療養介護に対して金銭を与える旨の遺贈も,負担付遺贈の一種となります。
 形式的には,この方式が適切なのですが,受遺者が義務を履行しない場合でも,遺贈自体は有効のままです。この場合,相続人が受遺者に義務履行を催告し,それにも応じない場合には当該遺贈の取消しを家庭裁判所に請求することになります(民法1027条)

遺言による信託

 信託とは,AがBに財産を譲渡し,Bが当該財産を管理・処分することで利益をCに与える法的枠組みです(信託法3条2項)。
 遺言によって信託設定が可能となるため,例えば預金債権が相続財産になりうる場合,信託銀行を受託者として,生活資金給付信託・永代供養信託・公益信託といった管理・処分が可能です。
 もっとも,対象財産ごとに受託者を変える必要があり(預金なら信託銀行,有価証券なら信託証券会社,不動産なら信託不動産会社),受託者が適切に管理していることをどうやって確認するのか,受益者による監督が難しいことが問題です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月19日 | Permalink