選択されているタグ : 相続,遺言,相続させる

「相続させる」旨の遺言

 公証人役場で遺言を作成する場合や,相続業務に携わる専門家に遺言書作成をお願いする場合,『○○(推定相続人)に,□□を相続させる。』という文言で遺言事項を作成することが一般的です。しかし,民法上は「相続させる」という遺言事項に対して,特別の法律効果を発生させる旨の条文がありません。一見すると,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)に似ているのですが,実際には全く異なる結果となります。

民法で説明できる部分

①相続分の指定(902条)
⇒法定相続分とは異なる相続分割合を定めることができる。
②遺産分割方法の指定(908条)
⇒相続人の意向を無視して遺産の分け方を定めることができる(ただし,指定しただけでは遺産分割は確定せず,遺産分割協議は必要となる。)。

判例が特別な効果を与えた部分(特殊性)

上記②に加えて協議・調停・審判を経なくても遺産分割が確定する。
④各種遺言執行が不要となる。
⇒指定された者は,単独で相続を原因とする登記手続が可能。
⇒指定された者は,登記(不動産の場合)・確定日付通知(債権の場合)がなくても第三者に承継取得を対抗可能。
⇒遺産が農地の場合,指定された者は転用許可(農地法3条)が不要。
⇒遺産が賃借権の場合,指定された者は賃貸人又は賃貸目的物所有者の承諾不要。

遺贈よりも手続が簡便にできる「相続させる」旨の遺言

 遺贈と構成する場合,上記④の大半は遺言執行者を選任しておかないと手続が煩雑となります。それを回避できる点でも,「相続させる」遺言は有用です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月05日 | Permalink