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弁済猶予を認める場合の交渉術②

 支払猶予を求めてきた場合,強制執行をを見据えた情報収集をすべきと,前回の記事でお伝えしました。仮に,情報を取得できても,相手方の支払遅延に至った段階で,債務名義(仮執行宣言付支払督促・確定判決等)を取得して,強制執行をしていては時間と費用が掛かるだけです。情報を得た後は,早期の強制執行実施に向け手続の準備が大切になります。

公正証書

 公証役場で,金銭債権の給付条項に関する公正証書を作成する場合,強制執行受諾文言を盛り込むことで,別途裁判手続をふむことなく証書正本に執行文を付して,債務名義として強制執行手続に進むことができます。

即決和解調書

 土地・建物の明渡しや動産類の引渡しについての給付条項を含む合意は,簡易裁判所で即決和解調書を作成することが簡便です。要するに,初回期日で裁判上の和解をする手続となり,簡裁にて執行分文付与を受けて,債務名義として強制執行手続に進むことができます。

交付送達を忘れずに

 強制執行受諾文言付の公正証書や即決和解調書を作成しても,当該証書正本又は調書正本が相手方に送達されていなければ,強制執行手続が速やかに始まりません。作成時に,送達申請を実施することを,忘れないようにしましょう。

期限の利益喪失条項の作り方

 金銭債権の分割弁済条項を設ける際,何度か支払を怠った場合には,期限の利益を喪失して未払残額を一括して請求することができる条項を設けることが多いと思います。
 当該条項はバリエーションがあり,例えば,①支払遅延にて期限の利益を当然喪失するタイプ,②支払遅延後の残額請求時に期限の利益を喪失するタイプ,どちらが簡便かというと前者になります。①は単純執行文として何の支障もありませんが,②は条件成就執行文(事後的に相手方に請求を実施したことが証明できないと強制執行できない)として余分な作業が発生してしまうからです。
 条項の表現一つとっても,繊細な問題が沢山あります。こうした部分は,弁護士として常に研鑽を深めているところです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年06月27日 | Permalink

弁済猶予を認める場合の交渉術①

 取引先が,売掛金の支払について支払猶予(弁済期延長,分割弁済等)を求めてきた場合,頭を抱える経営者の方は多いのではないでしょうか。親身になって協力してあげることも一策ですが,リスク回避の観点からは,正にこの時が勝負所になります。

強制執行に向けた情報収集

 相手が“お願い”をしているのですから,こちらからも条件を付けて交渉することが肝要です。必ず意識して欲しい点としては,強制執行を見据えた相手方財産の把握です。
 経営状況を知るために,貸借対照表と損益計算書だけ見せてもらっても,債権回収の場面では何の役にも立ちません。相手名義の財産が記載してある勘定科目内訳明細書を必ず見せて貰うようにしましょう。また,シンプルに,会社名義の通帳の写しを貰うことでも良いです。

保証人の徴求

 債権回収の担保のため,人的保証を要求することも,伝統的手法です。会社代表者自身は,既に銀行融資の連帯保証人に設定されていることが多いので,代表者以外の者(配偶者・前代表者等)を保証人に設定すると良いでしょう。
 もちろん,保証人候補者の財産状況についても,確認を心掛けてください。保証人を設定せいても,保証人に資力がなければ何の意味もありません。

債権・動産の譲渡担保設定

 銀行融資の抵当権が設定されていない,相手方の売掛金や在庫商品・重機類に譲渡担保を設定することが,有効な担保設定方法です。譲渡担保の場合,名義を移すか,動産・債権譲渡特例法による占有移転の公示をするだけで,危機時期に裁判所での裁判・強制執行をすることなく担保実行が可能です。
 もっとも,売掛金等の債権の場合には,第三債務者の資力等による回収リスクがあり,動産・重機類の場合には換価可能性・容易性が問題となります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年06月23日 | Permalink