交通事故により傷害を負ってしまった場合,何はともあれ怪我を治すことが先決です。では怪我を治すのに必要な治療費は全て加害者(ないしは加害者の保険会社)から支払いを受けられるのでしょうか。



 被害者からすれば「事故がなかったら怪我をすることなんてなかったんだから,全ての治療費を払って貰えるのは当たり前じゃないか!」と思われるかもしれません。しかし,その治療がまだ医学上一般的に認められていない最先端技術で,効果も確立されていないというような場合はどうでしょうか。そのために海外へ手術を受けに行くという場合,渡航費も全額支払って貰えるのでしょうか。あるいは鍼灸治療,マッサージ治療等,医師資格のある者が行う施術以外の治療はどうでしょうか。被害者からすれば支払って欲しい費用ではあるでしょうが,客観的に見た場合,全てが当然に支払って貰えるとは言い難いところがあります。



 結論としては,法律上,加害者に支払い義務があるのは当該事故との間の相当因果関係が認められる治療費についてのみです。抽象的な回答になってしまいますが,通常,医学的に見て治療に必要かつ相当な治療で,相応な額の治療費について相当因果関係が認められます。




人身事故の被害にあった場合に賠償請求できる損害としては,以下の種類があります。
なお,詳細については,各項目ごとのコンテンツを参照してください。

第1 怪我の治療(入院・通院)関連損害 

1 治療費  
    事故によって負った怪我の治療費です。
2 交通費  
    治療のために通院した場合,その交通費を請求できます。
    ただし,公共交通機関以外にタクシー等を利用した場合のタクシー代等は,事案によります。
3 入院雑費   
    入院した場合,雑費を請求できます。
4 付添介護費
    事故により入院した場合,怪我の状況等事情によって付添人が必要であった場合,その費用を請求できる場合があります。
5 傷害慰謝料    
    傷害に対する慰謝料を請求できます。
6 休業損害    
    怪我のため仕事を休まざるを得なかった場合,休業したことによる損害を請求できます。

第2 後遺症を負ってしまった場合   
   さらに,事故により後遺障害を負ってしまった場合,以下の損害の賠償請求ができます。
1 後遺障害慰謝料        
   上記傷害慰謝料とは別に,後遺障害に対する慰謝料を請求できます。
2 逸失利益  
   後遺障害により労働能力の喪失が認められる場合,本来であれば将来,労働によって得られたであろう収入を得られなくなるので,これを逸失利益として損害賠償請求できます。
3 家屋改造費用その他
    被害者の怪我の状況や後遺症の程度・内容により,必要性が認められる範囲で自宅の改造費用等が認められる場合があります。

第3 死亡した場合   
 不幸にも事故により死亡してしまった場合には,以下の損害の賠償請求ができます。
1 葬儀費用
    葬儀の費用を損害として賠償請求できます。ただし,実際の葬儀費用が全額そのまま認められるとは限りません。
2 逸失利益 
    被害者が生存していれば,将来労働によって得られたはずの収入を逸失利益として賠償請求できます。
3 死亡慰謝料
    被害者が死亡したことによる慰謝料です。

 * 上記は一般論です。上記の記載以外の損害であっても,事案の内容により認められることもありますので,具体的には弁護士にご相談下さい。
    


交通事故により自分の車両が損壊した場合、「事故前の原状どおりに直して下さい」と請求したいのは心情としてよく分かります。
そして、修理代が加害者や保険会社から全額支払われる場合にはそれ程問題にはなりません。

実際によくトラブルになるのは、修理代が事故車の時価額を上回る全損の場合です。
この場合、事故車の時価額をベースに損害額が算定されることになりますので、どうしても事故車の修理をしたい場合、被害者はその差額を自己負担することになります。

物の価値を金銭的評価に置き換えて計算するための弊害かもしれませんが、残念ながら、現在の裁判実務では仕方がありません。



 休業損害とは,交通事故による怪我によって休業せざるを得なくなり,その間収入を得ることができなかったことによる損害をいいます。休業損害は,怪我が治癒するか又は症状固定となるまでの期間に生じた収入の減少ですので,症状固定後に後遺障害によって生じる収入の減少=逸失利益とは異なるものです。  



 休業損害が認められる期間は,基本的に怪我によって実際に休業を余儀なくされた日数=実休業日数ですが,場合によっては期間が制限される場合もありますので,一概にいうことはできません。また,無職の方については,休業による収入減という損害が発生しないわけですから,原則として休業損害は認められません。ただし,例えば学生の方で就職が内定していたとか,近いうちに職に就くことが確実であった等の事情があれば休業損害が認められることもありますので一度ご相談下さい。なお,無職という意味では専業主婦の方も同じと思われるかもしれませんが,現在では休業損害が認められることが通常です。





 交通事故損害賠償における慰謝料とは,交通事故によって被った精神的損害に対する賠償であり,傷害慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料等に区分されます。なお,慰謝料は交通事故に特有な損害項目ではありません



 被害者からすれば,事故によって多大な肉体的・時間的・費用的損失を被っているわけで,その精神的な苦痛は甚大であると感じることが多いでしょう。ですのでできるだけ多額の慰謝料の請求をしたいと考えるのは当然です。また,アメリカ等では極めて多額の賠償(懲罰的損害賠償と言われることもあります)が認められたとの報道を耳にすることもよくあります。とすれば,日本でも同じように多額の慰謝料が認められて然るべきとの考えもありうるでしょう。



 しかしながら,我が国の場合は,例えば傷害慰謝料であれば通院期間(日数)や入院期間(日数),後遺障害であればその等級など,客観的要素によって,おおよその慰謝料額が類型的に決まるのが通常であり実務の運用です。このような運用は,一見,個々の事案における被害者の主観的事情を重要視しておらず,画一的で妥当でないとも思えますが,見方を変えれば,事故の類型ごとに平等な取り扱いがなされているとも評価することもできます。




 後遺障害が残存してしまったということは,言い換えれば,将来に向かって肉体的・精神的損害が発生すると言うことであり,前者が後遺障害逸失利益の問題で,後者が後遺障害慰謝料の問題と言うことになります。ここでは,後遺障害逸失利益について説明いたします。
 後遺障害が残存するということは,当然,交通事故の前と比較して,労働能力に低下がみられるのが通常なわけであり,すると収入の減少が認められるのが通常ということになります。しかもこれが将来に向かって続くのですから,「仮に交通事故により後遺障害を負っていなければ,○○円の収入が得られたはずだ」ということができ,これを後遺障害による逸失利益というのです。
 その算定方法ですが,
 《基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数》
という算定式で算出されるのが通常です。